第17話 最終試験(1)


 この出来事が起きたのはルクスが無事職業を決めることができた次の日の午後の魔法訓練の始まる時だった。


「今日はもう魔法の訓練はやらないだわさ!!なんでかって?そりゃあ、もうすぐワタシがアンタたちに魔法を教え始めてから1年経つからね、今回はその実力を図るための最終試験を行うさね!」


 は?マジですか!こりゃー気合い入れていかねーとな。


「ちなみに1位以外は合格にしないからね!分かったら死ぬ気で頑張りな、あと1位はその後本気のワタシと戦ってもらうよ!」


 ゴクリ……その言葉は俺を含め、みんなの緊張を一気に引き上げる。


「ま、じゃあ対戦相手は適当にくじで決めるからみんな引くだわさ!」


「げっ、はい!」


 くじとか俺絶対不利なんですけど、バーバラさんなんて決め方してくれんだ!そして恐る恐るみんながくじを引いていく。ちなみに俺の番号は③だった。


「それじゃあ番号が書いてあるのトーナメント用紙を見るだわさ!」


 俺は二戦目で相手は⑥だ。まぁどうせ……


「あ!ルクスが相手なのね?お互い頑張ろうね!」


「う、うん……」


 やっぱりイーサ姉ちゃんか、そんな事だろうと思ったよコンチキショー!俺の運の悪さ舐めんな!


「それじゃあ最初の戦いはサラとカーリだわさ。準備ができたら決闘の儀を始めな!」


「はい!」


 2人とももう覚悟が出来ていたのか、すぐに決闘の儀を始める。サラは力強い声で決闘の儀の句を唱え始めた。


「私は約束する。決闘の儀の誓いに則り、全力を持って敵を討ち滅ぼすことを!」


 その言葉のあと、それに応えるように、カーリが返しの句を唱える。


「俺は約束する。決闘の儀の誓いに則り、全身全霊を持って敵を討ち滅ぼすことを!」


 そして2人は戦いの始まりを合図する最後の句を言い放つ。


「「我に勝利を!」」


 この決闘の儀というのは、考案者は不明だが、正当な魔法使い同士が実力を図るための最低限のルールを設けた戦闘であると周りに知らせるためにつくられたものだった。


 ちなみに最低限のルールとは、相手を殺さないことである。また、体に障害が残る魔法の行使でも、それを治療できる魔法使いが審判を務めているなら認められている。まぁそれ以外ならなんでもありってことだ。


 そしてこれらのことを破った場合、決闘の儀の句が詠唱となってとある魔法が発動し、魔法使いの名誉と共に、その人の魔力は永遠に失われることになる。


 戦いが始まった瞬間にサラは一気にカーリに向かって走り始めた。


「最初から全力で行くわよ!『付与(エンチャント)・火(ファイア)』」


 なにぃ!?サラもう武術使えるようになったのか?そう言えば1人でなんかコソコソ練習してたな。


 サラは自身と武術の練習の時も使っていた木刀に火属性付与の武術を施し、カーリに切りかかろうと更に前に出た。


「それは流石に当たったらやばいなぁ、『アクアボール』」


 カーリは慌てる様子もなく、大きなアクアボールを4つ一気に創り出し、自分の周りに浮遊させている。


「もう遅いわよ、倒れなさい!」


 サラが身体強化をして繰り出した力強い突きがカーリに直撃する、ことは無かった。


「当たったと思った?カヒヒ!この方法って防御魔法より消費が少なくていいんだよねぇー」


 カーリはそう舐めたような口調で安い挑発をサラに吹っ掛けた。


 そして何故カーリが無事だったのかと言うと、6つのうちの2つのウォーターボールをサラの木刀にぶつけ、火属性の魔力と木刀のスピードを上手く殺したと同時にサラを吹き飛ばしていたからだ。


 スゲーなカーリ!あの馬鹿力のサラと対等にやり合うなんて!今まで目立たなかったけど見直したぜ!でもカーリ、その挑発はダメだと思うぞ。俺が考えていたことはすぐに当たってしまった。


 サラはカーリの挑発に顔を真っ赤にさせている。そしてサラの内心を単純に説明すると「ぶちギレた」状態なことに間違いないだろう。


「……ちっ……ちょっと私の攻撃を防いだぐらいで調子に乗ってんじゃないわよ、ていうかそんなに私に滅多打ちにされたいの?ねぇ」


 サラの恐るべき特徴は、怒れば怒るほど魔力の質、量、そしてスピードが跳ね上がることである。よくよく考えたらめちゃくちゃ強くないか?


 そして今、サラの周りには鮮血のように赤い魔力が溢れ出ている。


「さぁ、覚悟はできた?行くわよ!」


 そのままサラは無詠唱で武術を発動させ、さっきと同じようにカーリに突っ込んでいく。


「そう来ると思ってたよ!『アクアランス』」


 カーリはサラが受けたアクアボールが弾けたことによってできた水溜りをアクアランスとして再構築し、サラの背後から攻撃をしようとした。


「カーリの奴、どうやら魔法の操作が上手なようさね」


 あのバーバラさんが褒めてる!?ていうかあんな攻撃どうやって避けるんだよ!? 残念ながら、俺のそんな発想をサラはぶち壊してきた。


「邪魔!」


 サラは面倒くさそうにそう言って、後ろから迫るアクアランスを木刀に込めた火の魔力の熱量によって蒸発させた。


「え?」


 流石にカーリも顎が外れるくらいに顎を開いて驚愕している。


「隙だらけなのよ!!」


 その間にサラはカーリに接近し、気絶させることに成功した。


「勝者サラ!」


 バーバラさんがサラの勝利を宣言した。


「スゲーなサラ!あんな力任せなこと良く出来るよな!」


「ねぇ、それ褒めてんの?まぁ、ちょっと怒っちゃったし後でカーリには謝っとくわ、それより次アンタの番でしょ、頑張りなさいよね!」


 サラって人に褒められるとすんげーニマニマするよな、顔は綺麗なくせになんか気持ち悪い……


「今なんか失礼な事考えたでしょ?」

「いえいえ、なにも考えておりませんよ」

「嘘つくんじゃないわよ!」


 俺とサラがそんな冗談を言い合っていると、次の試合がもう始まるみたいだ。


「それじゃあ2戦目はイーサとルクスさね、準備ができたら決闘の儀を始めな!」


「はい!」


(ルクス、この試合はイーサ殿の方が大分有利だ。だか、負け試合などあるまい!我も知恵を貸すんだから何としてでも勝つぞ!)


(ナビもできるだけサポートできるよう、全力を尽くします。)


 遂にこの時が来たな。イーサ姉ちゃんに今の俺がどこまで通じるか分からないけど、クロナとナビと一緒に頑張ってみるしかねぇな!


 俺は緊張を解きほぐすように馬鹿でかい声で決闘の儀の句を唱え始める。


「俺は約束する!決闘の儀の誓いに則り、全力を持って敵を討ち滅ぼすことを!」


 イーサ姉ちゃんは、俺の緊張した顔を見てニコッと微笑んでから返しの句を唱えた。


「私は約束する!決闘の儀の誓いに則り、全身全霊を持って敵を討ち滅ぼすことを!」


「「我に勝利を!!」」




 こうして、俺の約半年間の努力した成果が試される戦いが始まった。


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