第16話 星屑の下で(2)
「あ、うわぁぁ!!」
「何やってんだいルクス!しっかり集中しな!じゃないとワタシが教えてる意味がなくなるだわさ!」
ぼーっとしていたのか、気がつくとバーバラさんの風魔法で吹き飛ばされてしまっていた。
「は、はい!」
「じゃあ切りもいいから今回の訓練はここまで!自主練をする者は魔力切れに気をつけるように」
あぁ!もう何やってんだ俺は!
今後の職業のことを頭の中でぐるぐると考えてしまい、バーバラさんとの模擬戦を行う訓練にも全く身が入らなかった。その後、イーサ姉ちゃんが遠慮げに俺に話しかけてきた。
「ねぇ、ルクスも自主練するの?そしたら一緒にやらない?」
「いや、ごめんイーサ姉ちゃん、俺ちょっと考えたいことがあるから先に戻ってるわ」
「う、うん分かった」
もう周りに八つ当たりなんてしないぞ。ここは孤児院に帰って1人で職業選択についてゆっくり考えよう!
そんな考えで俺は孤児院にいそいそと戻っていく。
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そして孤児院に帰ってから、夕食前になるまでの時間が経過した。
「あああああああ!!!!なんで打開策が浮かばねぇんだよぉぉ!!!!」
まぁ確かに考えることを努力してはいた。
しかし、元々が馬鹿なため、冒険者以外の職業のことは何も知らないので他の職を選べるはずがない。なのでとりあえずスコラが持っていた職業選択についての分厚い本を勝手に見てみることにした。
その本は中々親切で、職業ごとの良い所と悪い所、その職業に合う人材、性格などがしっかりと書いてあったのだが、
「うわぁ、字がいっぱいだ……頭痛くなってきた」
すでにバーバラから読み書きは習い終わっているのだが、安定の活字嫌いを発揮し、挿絵のページをパラパラとめくっただけでじっくり見ようともしなかった。
「あぁ、もう無…理…」
そして遂に俺の思考は停止してしまった。
そうして、すっかりやる気を折られた俺はさっさと夕食を食べ、体を洗い、みんなと一緒にすぐに寝ようとしたのだが、ろくに魔法の訓練に身が入っていなかったからか、それとも頭の中をぐるぐる回っている思考のせいなのか、俺は中々寝ることが出来なかった。
ちょっと外の空気でも吸ってくるか。
俺はみんなを起こさないようにベッドから抜け出し、玄関へと向かった。そして孤児院の外を出ると、冷たい空気が肌を掠める。ちょっと寒いな。
頭上を見てみると、真っ暗な夜の空に数え切れないほどの星が煌めいていて、その優しい光は、まるで一つ一つの星が自分を大丈夫だよと慰めてくれているようだった。
「あーあ、このまま職業決めれなかったら俺どうなるんだろーな」
俺が空を見上げながら呆然とそんなことを呟いていると、不意に後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「ルクスだよね?」
「イーサ姉ちゃん?ごめん、起こしちゃってたのか」
「いいよ、そんなこと」
そうイーサ姉ちゃんは言いながら、ぼーっと空を眺めていた俺の隣に座る。
「そんなことよりルクス、何か悩み事があるでしょ?私に話してよ」
イーサ姉ちゃんが珍しくすごく真面目な顔でそう言ってきた。てか顔が近い。これは流石に誤魔化せないな、困った。まぁイーサ姉ちゃんなら恥ずかしくないし、いいか。
「実はさ、俺ずっと冒険者になりたかったんだ。でも俺って驚くぐらい運が悪いし、見た目とか色々問題があるから、周りの人たちにも迷惑かけちゃうかなって…!」
パチン、俺が弱気なことを言っていると、イーサ姉ちゃんに両頬をぺチンと結構な力で叩かれた。
「周りなんて考えてちゃダメ!ルクスが今やりたいことなら周りのことなんか考えずにやっちゃえばいいと私は思う!」
俺はイーサ姉ちゃんに顔を押しつぶされながらも自分の考えていることを伝える。
「でも本当のことを言うとね、俺黒髪だからさ、冒険者になったってみんな怖がったりして関わってくれないとか考えちゃって怖いんだよね」
今まで自分でも考えまいとしていたことを何故かイーサ姉ちゃんに話してしまった。不意に出たとはいえ、結構恥ずかしいなコレ。
そうすると、イーサ姉ちゃんはおもむろに夜空にある無数の星を指差し、こう話し始めた。
「ねぇ見てルクス、この世界にはあの星たちくらい沢山の人がいるんだよ。だからね、ここら辺にはルクスの黒髪を馬鹿にしたり、怖がったりする人たちは多いけれど、私や孤児院のみんなみたいに普通にルクスと話したり笑ったりしてくれる人だっていると思うんだ!どう?そう思わない?」
(大体我がお前を恐れたり怖がったりすると思ってるのか?この馬鹿者!)
確かにな、そう言えばクロナも黒髪だしな……なんか嬉しいよ。
(そそそ、そんな礼は要らん!だからこれからもくだらない偏見に耳なんか貸すんじゃないぞ!分かったか!)
へへへ、なんか照れくさいけどありがとな。イーサ姉ちゃん、クロナ!俺ようやく分かったよ。
「そうだよな、俺は俺なんだ!ちょっと髪が黒くて運が悪いくらいで下向いてられるか!」
「そうだよルクス!あとね、私も冒険者になることに決めたの、それでルクスや他の人たちだって、いつでも守ってみせるんだから!」
そうイーサ姉ちゃんが頼もしいことを言ってくれた。やっぱりイーサ姉ちゃんは凄いや!
「ありがとイーサ姉ちゃん。じゃあこれからもよろしくな!」
「こちらこそよろしくね!やっぱりルクスは笑ってる方が格好いいな……」
「え?なんか言った?」
「え!?な、なんにも言ってないよ!さぁさぁ、早く寝よっ!」
こうして俺はイーサ姉ちゃんとクロナの後押しにより、冒険者の道を目指すことをようやく決定することが出来たのだった。
そしてこの決断は、後に世界をも揺るがすものであることは誰も知る由もなかった。
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