第15話 星屑の下で(1)


 あの事件から時間は矢のように進んでいき、気づいた時にはバーバラさんが俺たちに訓練で魔法を教え始めてからもうすぐ半年が経過しようとしていた。



「あと少しで10歳か、はぁー」


 俺は半年近く続けてきた村の周りの森をひたすら走るというひたすらシンプルなトレーニング、その名も「森ダッシュ」を終了させた後、そうため息をついていた。

 そしてため息をついている原因とは。


「これからの将来に何をやるとか、今決めないとダメなのか?」


 そう、バーバラさんの言いつけによって、俺たちが10歳になる年に近い将来に就きたい職業を決定するという、無理難題とも言える課題が出されたのだった。


 なぜ無理難題なのか?それは恐らく幼い年齢の子供が考える無鉄砲で、夢と希望がいっぱいの夢ならどんな子供でも一つは持っていてもおかしくはないだろう。

 しかしバーバラさんが俺たちに課しているのはこれから自分たちが本当に就職する、それこそ夢物語の職業など全く無い現実的なものだったからだ。


 故に孤児になった理由などによって強い意志を持って職業を選択している者と、そうでもない者でこの時期には差がどうしても出てしまう。

 そして肝心な自分は父親が魔物に殺されたため、一応前者に含まれる理由があるのだが。


「確かに父さんは俺が産まれる前に魔物に殺されたって聞いたけど、正直顔もよく知らん人のために職業を決めるってのもなんか違うよな」


 思ったよりドライな性格だったため、そのことに影響されて職業の決定をするまでには至らなかったようである。


 けど、俺にはなりたい職業があるにはある。

その職業というのはずばり冒険者である。


「にしても冒険者っていいよなぁー、確かに危険で命懸けなクエストもあるけど、それ以上に世界中を旅出来るし、色んな人とも出会えるんだぞ?何より格好いい!これ以上楽しい職業ってあるか?」


 そんな風に1人でブツブツと自分の考えを呟いていく。しかしこの職業に多少は必要なもので、ルクスには決定的に欠如しているものがある。


それは、運。


「薄々気づいてたけど、俺本当に運がないんだよなぁ、しかも多分だけど相当な巻き込まれ体質だし」


(我がお前の中にいる時点で巻き込まれ体質なのは確定だがな!ガハハ!)


 クロナは黙っとけ!

俺は心の中で叫び声を上げる。


 最近は黒い魔力のコントロールが多少は出来るようになり、戦いにもなんとか取り入れられるようになった。

 そのことでさらにルクスとクロナの繋がりは強くなり、ルクスが寝ていたり気を失ったりしていなくても2人だけの会話だけなら可能になっていた。


(ルクスには称号に「超・巻き込まれ体質」が存在しています。)


 そこで突然ナビが不穏なことを言い出す。

こいつなんか最近勝手に話し始めるんだよね……

そう言えば自分がどんだけ成長したかも知りたいし、久々のステータスチェックだ!


(その言葉を待ってました。)


ルクス

レベル 11

総合階級 4級

個別階級 火魔法 5級 水魔法 5級

風魔法 4級 雷魔法 5級

黒魔法 4級

称号 無彩色の悪運 孤児 魔力との仮契約者

超・巻き込まれ体質 死線を超えた者

ど根性 馬鹿(笑)


 くっそ、悪運と巻き込まれ体質とかやっぱりあった!最悪だよ!ていうか馬鹿(笑)とか明らかに悪意あるだろ!?


(ありません……)


いやあるだろ。


(いいえ、ありません…)


笑ってるじゃねぇか!もういいよ!


 そんなこんなで俺は昼ご飯を食べるついでに、孤児院のみんなが職業をどんな風に決めているかを確認するために孤児院へと急いで帰った。


「ただいま!みんな!」


「おかえりルクス!」


 どうやら孤児院のみんなが俺の帰りを待って一緒にご飯を食べようとしていたらしい。


「さぁさぁ、ルクスも早く食べるわよ!座った座った!」


 サラは余程午前中の魔法の自主練から帰ってきてお腹がすいているのか、俺を凄まじい勢いで急かしてくる。


「分かったよサラ、よしじゃあ」

「いただきます!」


 ここで俺はバーバラさんがいないことに気づいた。


「あれ?なんでバーバラさんがいないんだ?」


「バーバラさんなら食料が切れたから買い物に行ったよ…」


「そうなんだー、こんな時に珍しいな」


 アリアさんが綺麗な顔をこちらに向けて俺の質問に答えてくれた。今更だけど、この孤児院って女子の可愛さ総合階級が高いよね!!


 おっと、脱線してしまった。

よし!バーバラさんがいない今がチャンスだ!


「あ、あのさ、みんなってもう自分が就きたい職業って決まってんの?」


 俺はみんなに恐る恐るといった感じで質問をしてみた。


「職業ですか?僕は亡くなった両親のお陰で、幼い頃から計算や暗記などが得意なのでとりあえず大商人の見習いになろうと思ってますよ」


「私は絶対冒険者よ!それでいきなり現れてたくさんの人を食べちゃうっていう魔物に殺された父さんよりもっともっと強くなって、ソイツを私がぶっ殺してやるんだから!」


「私?…まだ決まってないかな」


「「俺たちは発明家!」」


「俺は絶対傭兵だな!危ない仕事も多いけど格好いいからな!チヒヒ!」


「俺たち3人組はいつまでも一緒だから俺たちも同じ傭兵志望ってことになるな!デハハ!」


「そうだよ!俺たちはいつも一緒だ!カヒヒ!」


結構みんな決まってるんだな、全員ではないけど。

あとはイーサ姉ちゃんだけか、すげー気になるな。


「うーん、実はまだ決まってないんだ……でも、困ってる人とか傷付いた人を守れる職業がいいとは思ってるよ」


 へぇ、以外だな。イーサ姉ちゃんならもう決めてると思ったのに。


「ルクス、さてはまだ就きたい職業を決めてないから私たちに聞いてきたんでしょ?」


 サラがドヤ顔で俺にそう聞いてきた。

サラはいつも痛いところをついてくるから困るんだよねー。ちょっとうざい。


「ま、まぁな……」


「それでいきなり職業のことを聞いてきたんですね。よければ僕が助言くらいならしますよ」


「そうだぞ!俺たちにも困ってるなら相談してくれよな!チヒヒ!」


 みんな本当に優しいな、でもなぁ……


「悪いんだけどこればっかりは自分で決めないと駄目だと思うんだ。でも心配してくれてありがとな」


 なんだか俺はその場に居づらくなり、午後からあるバーバラさんが指導する魔法の練習をするために早めに孤児院を出ていった。




「ルクス……大丈夫かな?」



 イーサの心配そうな声は俺の耳には届かなかった。



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