第14話 仲直りと決意


 俺はどうやらどっかのベッドで寝てるらしい。

ふわぁ。とりあえず起きるか。


「う、うーん。また誰かに運んで来てもらったのか、それにしてもよく生きてたなっ!?」


 「ルクス!!やっと目を覚ましてくれたのね!?

も、もう目を覚まさないんじゃないかって心配してたのよ!?それにみんなは私が守るって言ったのに、守りきれなくてごめんね。でも、でもね?私約束するの!これからはもっともっと頑張って、みんなを守りきれるようになるって!」


 そう言いながら俺の看病をしていたと思われるイーサ姉ちゃんが泣きながら俺に抱き着いてきた。

 俺はわざとその場を動かないようにしていたので、イーサ姉ちゃんの体温や心臓の鼓動を目を閉じて感じることが出来た。

 ゴクリ。そこで俺は願うように目をつぶってイーサ姉ちゃんにある質問をした。


「ね、ねぇ?みんなは無事なの?」


「うん!みんなバーバラさんの回復魔法でいつも通りだよ!」


 そこで俺はようやく肩の力を抜いた。俺ちゃんと生きてるんだ。それにイーサ姉ちゃんも、みんなも。


 そうしてようやく自分が生きていることに実感が湧いた。それと同時にイーサ姉ちゃんの暖かい体にドキドキしている自分に疑問を持ったが今は無視しておこう。


「い、いや、俺こそイーサ姉ちゃんに謝らないといけないんだ。この間は自分が魔法が使えないからって八つ当たりしちゃってごめん。ってことで今回のこととでお相子、じゃあ駄目かな?」


 そう俺が言うとイーサ姉ちゃんは泣いているのに何故か笑いがこみ上げてくるのでもうよく分からなくなっているようだ。


「アハ、アハハ!本当にもう、ルクスったら、調子良いんだから!こっちこそごめんね。ルクスの気持ちも知らずにあんなこと言っちゃって」


「もうお相子なんだから気にしないで、それでその……よかったらイーサ姉ちゃんにも魔法を教えて欲しいんだ!どんななことが起こっても大切な人たちを守る力が俺は欲しいんだよ!」


 そう俺は決意の言葉をイーサ姉ちゃんに伝えた。


「そんなのいいに決まってるじゃない!これからも一緒に頑張りましょ!」


「うん!よろしくねイーサ姉ちゃん!」


 イーサ姉ちゃんが俺の願いを快く引き受けてくれた所で扉が勢いよく開いた。


「なんだようやく起きたのかい、ワタシは村の人たちに伝えてこいって言っただけだってのにねぇ。まぁなんにせよ今回のアンタは立派だったよ。みんなを守ってくれてありがとうね、ルクス」


「バ、バーバラさん!ごめんなさい、これからは勝手な行動はしないようにします!」


 俺はバーバラさんに言われたことをすっかり忘れていた。な、なんてことしちまったんだ!これじゃあ「お勉強の刑」(1日中バーバラさんとマンツーマンでお勉強をする地獄の罰)になっちまう!ということなので、それはもうすごい勢いで謝った。


「まぁ、謝るのはそこら辺にして、コイツらにもお前の顔を見せておやり」


 よっしゃぁぁぁあ!罰なしで許してもらったぁ!

俺が喜んで飛び跳ねていると、バーバラさんの後ろから孤児院のみんなが部屋に入ってきた。


「ルクス!アンタってあんなに凄い力があったのね!?とにかくありがと!」


「ルクスには感謝の言葉しかありません、これから一緒にたくさん魔法の話をしましょうね!」


「ルクス…私何も出来なくてごめんね…でも生きてて良かった…」


「「ルクスありがとな!これからも仲良くしてくれよな!」」


 サラ、スコラ、アリア、スパナとバールの順にそれぞれが俺に感謝の言葉をくれた。

 そして驚くべきことにビチルダ、デフ、カーリのお馴染み3人組が珍しく泣きながら話しかけてきた。


「ご、ごめんルクス!この前は魔法が使えないからって馬鹿にして、それなのに気絶した俺を庇ってくれて……もう申し訳ないとしか、グスッ、も、もし許してくれるなら、俺たちと、友達になってくれないか?」


「ごめんなルクス!も、もう俺のご飯毎回お前に半分あげるから、ゆ、許して欲しいんだ!本当にごめん!」


「ルクス!むしがいいのは分かってるけど、俺たちと友達になってくれないか?いっつもビチルダとデフに流されてた俺だけど、今回のことで何が大切なのかが分かった気がしたんだ!だ、だから頼む!」


 お前らも良いこと言えるじゃんか。特に最後のカーリ!俺は3人組の弁解に感動しながらも言葉を返す。


「あぁ、これからよろしく頼むな!まっ、また突っかかって来たらボコボコにしてやるけどな!」


 俺がそう言った後、みんなで笑いながら仲直りの握手をした。


「よし!それじゃあ、今からパーティーを行う!全員所定の位置につけ!」


「はい!」


 そうしてバーバラさんの号令を合図に、みんながまだ立てる程回復しきっていない俺を囲うように椅子を持ってきて、みんなの生還と俺が目を覚ましたことを祝うささやかなパーティーが開かれた。




━━━━━━━━━━━━━━




真昼が少し過ぎた頃から始めたパーティーは様々な話題で盛り上がり、遂には夜まで続いた。


「さぁ、みんな寝る時間だよ!各自の布団に入って寝ること、夜更かししてると体が成長しないよ!」


「はーい」


 あバーバラさんの言葉に眠そうに反応したみんなはそれぞれのベットに戻っていった。

 その時にバーバラさんが俺に小声で話しかけてきた。


「ルクス、今回の件ともう一つの別件でお前に話があるんだ。みんなにバレないように後で下に降りてくるさね。待ってるだわさ」


 そんなことを真剣な顔で言われたので俺は首を縦にこくこくと振った。

 時間は深夜になり、俺はみんなを起こさないようにゆっくりとバーバラさんが待つ下の階に降りていった。そして下の階にある居間の椅子にバーバラさんは座っていた。


「ルクス、こっちにおいで」


「はい」


 俺が反対側の椅子に座るのを確認すると、バーバラさんは俺に質問をし始めた。


「そんでルクス、あの黒い水みたいな魔力でプレミア平原と周りの森を破壊し尽くした状況をつくったのは自分の意思なのかい?」


 は?魔物を倒すくらいだと思ってたけどそんな被害あったの!?クロナのやつ、そこんところの説明しっかり頼むよ!


「いや、あれは俺の中の魔力が暴走したからなんです。でも俺の後悔とか、懺悔の気持ちとかが重なって魔力暴走に繋がってしまったんだと思うんです……」


 そこから俺は自分の心の中で起きた出来事、そして暴食、またの名をクロナの存在のことを隠さずに全てバーバラさんに話した。


「黒魔法の魔力を持っているからもしかしてとは思ってたけど、まさかアンタの中に七つの大罪の暴食がいるとはね、びっくりだわさ」


 びっくりしたと言う割に落ち着いた表情でバーバラさんは言葉を続ける。


「しっかし、アンタ気に入られてんのかねぇ?もし昔の逸話通りの暴食の性格だったら名前なんかつけたら普通にぶっ殺されるだけじゃあ済まされないだわさ。まぁ、運が良かったとでも思っときなさい」


 え?まさかあんなに態度がコロコロ変わるヤツがそんなヤバかったのか!?しかもめっちゃ馴れ馴れしく話しちまった……

 その後、俺はとりあえず心の中でクロナに10回くらい謝っておいた。


「そう言えばクロナ?だったか、ソイツに言われたことをやれば多少は黒い魔力を扱うことが出来るってのは本当なのかい?」


「う、うん、言い方からしてクロナは嘘をついてなかったと思うよ」


 そう俺が言うとバーバラさんは少し安心した様子を見せると会話の終わりを示した。


「そうかい、じゃあ明日から毎日クロナに言われたことを実践しな!だから今日はもうゆっくり休むさね」


「はい!バーバラさん、おやすみなさい!」


 俺は自分の頑張り次第でみんなを守ることが出来る新しい力が手に入ると考え、そのことに一生懸命に打ち込むことを心の中で決心し、上の階に戻っていった。



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 ルクスが上の階に行ってからもバーバラは難しい顔をして、ルクスから聞いた情報と自分の憶測を整理していた。


 ルクスの話してくれたことが本当のことなら、暴食の方もどうやらルクスの中に自分がいることの理由を把握してはいない、若しくは把握しているのにルクスには秘密にしているということになるだわさ。

 そして後者だった場合、黒い魔力を使うことで暴食とルクスの繋がりが強くなるのは今回の件で容易に分かるさね、そしたらその繋がりをルクスに黒い魔力を使わせることによって更に強めた後、体を乗っ取るくらいのことは本物の暴食だとしたら容易いはずだわさ。


 はぁー、まぁいいだわさ。

バーバラはひとまず思考するのを止めた。


 ワタシが今あれこれ推測したところでルクスに何かをさせることは出来ないさね。

 それなら、これから少なくとも半年はルクスの成長を促すことが出来るワタシがもっと頑張って、暴食にも乗っ取られないような肉体と精神をつくってやるさね!


 そうバーバラは強く決心した。

と、そこでバーバラはあるうっかり忘れをしたことに気付く。


「あ、そういえばジークとのことについて言うの忘れてたさね。まぁ明日にでも言えばいいだわさ。なんだか最近物忘れが酷くなって来たようだわさ、ワタシももう歳かねぇ」


 バーバラはそう言ったものの、実際にルクスをジークが引き取ってくれるという話を本人に伝えるのは、ずっと後のことになるのだった。


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