第10話 希望の一撃
俺たちは今、俺が魔力切れの仲間を守りながらが敵の位置をナビによって把握し、知覚されてしまった敵はイーサ姉ちゃんが倒していくというフォーメーションで森を進んでいる。
「後ろに一匹、前に三匹来てるよ!」
「了解!『ウインドストーム』」
イーサ姉ちゃんは第4階級魔法のウインドストームを同時に2つ創り出し、4匹のエレメントウルフを攻撃させる暇も与えずに倒した。
「よっしゃあ!これで辺りを警戒してるやつらは全滅したよ!あとは開けたとこにいるゴージャスウルフとエレメントウルフが25匹くらいだけかな?」
「すげー!」
「流石イーサね!」
「ありがと!じゃあさっさとウルフたちを全滅させてしまいましょ!」
イーサ姉ちゃんは周りの言葉に顔を赤くしつつ軽い口調で話しているが、疲れは相当なものになっているはずだ。
「イーサ姉ちゃん、もう少しでゴージャスウルフたちのところに着くけど、一旦休憩して…」
「何言ってんのルクス!こちらが後手に回る前に早く倒さないと人を守りながら戦うことなんて出来ないよ!」
そうイーサ姉ちゃんはそう言った後、強い意志を持った目を再び前に向け、歩き出した。
「イーサ姉ちゃんみたいに俺も強くなれるのかな……」
「何か言った?」
「なんでもないよ」
俺は小さい声でそう呟きながら、イーサ姉ちゃんに追いつくため、歩き出した。
しばらくして、俺たちはようやくゴージャスウルフが居る森の奥にある開けた場所の手前に到着した。
(強襲です。これによってゴージャスウルフを叩き、手下を混乱させるという作戦は失敗となりました。ゴージャスウルフの指示によって残りのエレメントウルフ28匹が周囲を囲むように配置されています。)
嘘だろ?さっきナビに確認した時にはまだこちらに気づいてない感じだったのに!
「イーサ姉ちゃん!敵にこっちの位置がバレてるみたいだ!しかももう囲まれてるらしいんだ!」
くそっ、俺はこんな時までイーサ姉ちゃんの足を引っ張るばっかりなのかよ!情けねぇ……
「わ、分かったわ!『ウインドストーム』」
イーサ姉ちゃんは今まで使っていたウインドストームとは一線を画すレベルの規模の竜巻を生み出した。それによってエレメントウルフはほぼ全滅状態となった。
「ま、まじか、あの数を一瞬で」
「凄すぎて言葉も出ませんね」
俺も含めたみんなから驚愕の声が上がる。
ゴージャスウルフが動きました。注意してください。ゴージャスウルフのステータスを表示します。
ゴージャスウルフ
レベル 35
総合階級 3級
個別階級 火属性 4級 水属性 4級
風属性 4級 雷属性 4級
武術 全属性 付与(エンチャント)・爪(クロー)
なんだこいつ、バカ強いじゃねえか!と、とにかくこのことを伝えないと!
「イ、イーサ姉ちゃん、今からゴージャスウルフが来るんだ!魔法は全部4級で武術も使ってくるみたいだ!」
イーサ姉ちゃんを除くみんなの顔が絶望色に染まる。
「大丈夫よ!私は何としてでも勝って見せる!みんなを守ってみせるんだから!」
そんな状況でもイーサ姉ちゃんは太陽のような笑顔を絶望している俺たちに向ける。
その瞬間、イーサ姉ちゃんの背後からアクアランスが絶妙なタイミングで放たれる。
「イーサ姉ちゃん!危ない!」
俺は咄嗟にイーサ姉ちゃんを突き飛ばした。
「ル、ルクス!?肩に刺さって……しっかりして!」
「うっ、俺は大丈夫だから、アイツを倒して……」
遂に森の奥からゴージャスウルフが姿を現した。ゴージャスウルフは何と俺たちを嘲笑うようにニタァと笑っている。
(ある程度の経験値を獲得している魔物は感情や知性を持ち始めます。)
なんでもいいけどあの笑い方めっちゃくちゃ腹立つなぁ、俺は魔法で穴が空いた肩を手で押さえながらそんなことを瞬間的に思った。
「よ、よくもルクスを傷付けたわね……
もう許さないから!!!」
あ、イーサ姉ちゃん切れた。いつも切れない人が切れる程怖いものってないよな。
イーサ姉ちゃんは余裕をかましているゴージャスウルフの前で仁王立ちをした。来るなら来いとでも言うように。
「バァルゥゥゥゥ!!」
ゴージャスウルフはそれに腹を立てたのか、四属性のランス系魔法を一斉にイーサ姉ちゃんの頭を狙って放った。しかし彼女は1ミリも体を動かさずに無詠唱の盾魔法を使い防御する。
「たかが第5階級程度で私を殺せるとでも思ってるの?そんな余裕があるなら私の拳を受けきってみせてね!」
イーサは呟くように言葉を発した後、精霊魔法を使用することで節約してきた自分の膨大な四属性の魔力を全て右手に集中させた。
そして右手に全ての魔力が集まった瞬間、ゴージャスウルフの目の前に突っ込む。
ゴージャスウルフはその何を考えているのか全く分からない行動に、すぐ反応することが出来ずその場で固まっていた。
「ぶっ飛べぇぇーーー!!」
「ギェ?!ギュァァァァ!!」
イーサが行った攻撃、それは一番単純だが、魔法使いの中で苦手意識を持っている者が多い攻撃方法だった。それは腕っ節と魔力にモノを言わせた、ありったけの魔力を込めた普通のパンチである。
しかし、その攻撃力は絶大だった。ゴージャスウルフはイーサの放ったパンチによって木々を破壊しながら吹き飛んでいき、余程ダメージが入ったのかその場から立ち上がると逃げ去っていった。
その頃、イーサ姉ちゃんとゴージャスウルフの攻防を見守っていた俺たちは、イーサ(姉ちゃん)には絶対に逆らわないでおこう。と無言で顔を見合わせ、そう誓い合っていた。
「……遂にやったんだ、ありがとう!イーサ姉ちゃん!」
「えぇ!私たちはこの辺りの大群はほぼ全滅させたから!だからもう安心して村まで帰れるわ!ルクス、今治癒魔法を…ってもう魔力残ってないや、急いで村に帰りましょ!」
「「やっぱりイーサ凄すぎ!!」」
そんな言葉と同時に広がるみんなの歓喜の笑顔、それからイーサ姉ちゃんの達成感のある笑顔。
あぁ、もういいんだ。そう思い俺は相当前に太陽が沈んでしまった夜空を見上げる。
そして俺は気付いてしまった。
逃げ去るゴージャスウルフの上にいる大きな絶望の存在に。
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