第19話 毒の仕組み


「……あ、あれ? 毒が消えない?」


ルリが戸惑った声を上げる。アカネも使ってみるが、


「……消えないね」

「ね?」


……ね? じゃないよ、ルリ?


わたしは理由も気になるが、とりあえずの手段に考えを巡らし始める。が、


「ふふふ。こういう時は……じゃん! [光魔法・光浄]」


ルリが「光魔法スキル」で毒を消した。……魔法は効くのね。というか、そんな技もあったんだ。


わたしたちは毒が消せなかった理由について話し合う。あの戦闘の後では、寝る気になれない。次の襲撃があった時に、対処できないでは困ってしまうからだ。


手がかりになりそうなものがないかと、二人に訊いてみると、それならばということでドロップアイテムが贈られてきた。名は「ハニーバジャーの毒」。それを「鑑定スキル」で視る――と、わかった。毒の系統が違うのだ。


ゲームではしばしば、すべての毒がたった一種類の回復アイテムで解毒できた。けれど、リアルではそんなことはありえない。ヘビの毒と、ハチの毒では抗体が異なる。ひとつの毒にはそれに対応した専用の解毒薬が必要になるわけだ。これに似たことが<アルテシア界>でもあった。


第一、第二フィールドの森では、毒草から毒消しを作っていた。そして、そこにいるモンスターのドロップから毒を得て作った毒消しも細かな差異はあったけれど、ほぼ同じ効果が得られた。それはなぜか――系統が同じだったからだ。


森にいたモンスターたちの毒は皆、毒草に由来したのだ。毒草から毒を得て、それを自らの毒として使っていた。だから、毒草の毒消しで、ハチの毒も、チョウの毒も消すことができた。


けれど、ハニーバジャーの毒は毒草由来ではなかった。ハニーバジャーの毒はティペットコブラという毒ヘビから得ており、そのティペットコブラの毒は毒ガエルに由来する。


ハチやトカゲなど、このフィールドの他の毒持ちモンスターは皆、この毒ガエルから毒を得ており、これをサバンナ系統と呼ぶらしい。そのため、このエリアで手に入った毒で作成した毒消しならば、いずれのモンスターにも有効ということになる。


丁度、ゲームとリアルの折衷案のような仕組みになっていた。


「……なんて、めんどうな」


わたしが鑑定の結果から導いたことを二人に伝えると、思わず口から出たとばかりにアカネが呟いた。


……ほんとにそう思う。でもまあ、最初の街で手に入れた毒消しが、ラストダンジョンのモンスターの毒にも有効って、不思議と言えば不思議かもしれないし、こんなもんかもしれない。……そう言って、納得するしかないよね?


ついでということで、見張りを交代し、わたしが休むことになった。なるべく早めにここを発って、安全な街の中でゆっくりしたいとのこと。わたしもそうしたいので、特に反論しなかった。その後は襲撃がなかったようで、わたしたちは日の出を待って移動を開始した。


帰りは、一度通った道ゆえ、順調そのもの。出遭うモンスターすべてを素材に変え、街を目指す。


「あ、あれ!」


そして、わたしたちのもうひとつの目的だったものを見つける。レアモンスター、スポンジャーロール。体長が五メートルという巨体で、ライオンのような姿をしている。けれど、自ら狩りは行わず、他のモンスターが得た狩りの成果を横取りすることで糧を得ていた。


そんなことができるくらいにはこのエリアでは規格外の脅威を誇っているモンスターなのだが、


「あ、なかなかいいもの落としますね。あと何体か遭えるといいんですけど」


わたしたちからすればおいしい以外の表現が思い浮かばない。というか、ヒキを倒せるのであれば問題ないのではないだろうか。飛竜みたく空を飛ぶわけでもないし。


「そうだねー。あとは、おっきい鳥さんだよね。カッジ……カ……なんだっけ?」

「カッジバルチャー、だよ。ルリ。鳥っていうかコンドルみたいなのだけど」


ルリはうろおぼえだったらしい。それと、アカネ。別に鳥でいいよ。コンドルって言われても、大きいことくらいしか知らないから。


「うーん。そう言われても……。あ、アカネちゃん。あんな感じ?」


ルリが空の一点を指さす。その先には鳥とは思えぬほど大きな姿で空を悠然と滑空するモンスターの姿があった。


「そうそう。あんな感じ……うん?」


その姿はまるで、ハンター協会で見せてもらった資料にあった画像のよう。……わかってるよ? 本物なのは。


「……うん。あんな感じ、じゃなくて、あれだね。こっちに向かってきてるみたいだから、二人とも構えて」


どうやら、先程のライオン……じゃなかった、スポンジャーロールの奪い損ねた獲物を狙っているらしい。あちらも、横取りを生業としているモンスターなのだ。それゆえに、あのコンドルも強い――


「あ、こっちもいい感じですね」


……はずなのだが、サクッと片がつく。二人もかなり強くなったということなのだろう。これなら、わたしは何もすることなく、街まで帰れそうだ。あとは、二人が集めてくれた素材の換金とレアモンスターの討伐報酬でルリが何を作ってくれるか。……働け? えー。ルリ、アカネ、養って!


その後、スポンジャーロールに二体、カッジバルチャーに一体遭遇し、そこそこの額の討伐報酬をいただくことができた。素材はとっておこうかと思ったのだけど、少し職員さんとお話したところ、品薄状態が続いていたため、高く買ってくれるとのこと。それならば、ということで、手放すことにした。特に使い道のあてがあったわけではないので、素材に思い入れはない。ルリもアカネも別にいいと言ってくれたので、ばっちりお金に変わった。


無事に換金が終わり、わたしたちが帰ろうとしたところ、


「あの、少しお時間よろしいですか?」


職員さんに引き留められた。

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