BLIZZARD!
青色魚
第一章
プロローグ『白』
──神様とやらがここにもいるなら、それは相当俺のことが嫌いらしい。
白、白、白。見渡す限りの景色はそれだけで、色という概念が消え去ってしまったようだ。
おまけに感覚も遠い。この手が持っているものが杖代わりの棒だと、遠い感覚神経が告げている。それほど体の末端が、冷たい。
吐く息は一瞬で白くなり、鼻の下はその冷気故出た鼻水が凍る。吹く風は容赦なく彼の体温を下げていき、吹雪はその視界を更に悪くする。そして肌を刺すその冷気が、何よりも意識を遠のかせる。だが寝てはいけない。空腹、眠気、冷気。凍死の三拍子が揃った今、眠りは永遠のものになるのは間違いないだろう。
だから彼は歩き続ける。終わりの見えない白の景色で、何か変化を探すため。凍えきった足をこれでもかと動かす。靴の間に挟まった雪は足を重くする。一歩一歩が渾身の進行だ。なけなしの体力をこれでもかと酷使する。それでも、変化は訪れない。
諦めてたまるものか。そう踏み出した足が、何かに引っかかる。
──っ!
声にならない声とともに体が倒れる。瞬間、痛み。正しくはそれは白い雪の冷たさであった。
「くっ……そ……!」
罵声の言葉ももう気力が伴っていない。身体のあちこちが「熱い」。この酷寒の世界で熱さを感じるのは皮肉のようだった。笑えないけれど。
彼──
ならばなぜ彼はこんな極寒の地にいるのか。その答えは簡単だった。突然飛んできた、そう言わざるを得ない。授業中に寝ていたらいきなり氷点下だ。その原理まで問われたら、彼は知るわけが無い、と怒るだろう。その気力があれば、の話だが。
だがそれを問う者もその場にはいない。周りはただただ雪景色。吹雪は耳をつんざき視界を曇らせる。だからせめて、彼はその理不尽を見守っているだろう神様とやらに叫んだ。
「……こんな異世界召喚、俺は認めねぇからな!」
しかしその叫びも誰の耳にも届かず、ただ吹雪の音にかき消されるばかりであった。
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