BLIZZARD!

青色魚

第一章

プロローグ『白』

 ──神様とやらがここにもいるなら、それは相当俺のことが嫌いらしい。


 白、白、白。見渡す限りの景色はそれだけで、色という概念が消え去ってしまったようだ。

 おまけに感覚も遠い。この手が持っているものが杖代わりの棒だと、遠い感覚神経が告げている。それほど体の末端が、冷たい。


 吐く息は一瞬で白くなり、鼻の下はその冷気故出た鼻水が凍る。吹く風は容赦なく彼の体温を下げていき、吹雪はその視界を更に悪くする。そして肌を刺すその冷気が、何よりも意識を遠のかせる。だが寝てはいけない。空腹、眠気、冷気。凍死の三拍子が揃った今、眠りは永遠のものになるのは間違いないだろう。


 だから彼は歩き続ける。終わりの見えない白の景色で、何か変化を探すため。凍えきった足をこれでもかと動かす。靴の間に挟まった雪は足を重くする。一歩一歩が渾身の進行だ。なけなしの体力をこれでもかと酷使する。それでも、変化は訪れない。


 諦めてたまるものか。そう踏み出した足が、何かに引っかかる。


 ──っ!


 声にならない声とともに体が倒れる。瞬間、痛み。正しくはそれは白い雪の冷たさであった。


「くっ……そ……!」


 罵声の言葉ももう気力が伴っていない。身体のあちこちが「熱い」。この酷寒の世界で熱さを感じるのは皮肉のようだった。笑えないけれど。


 彼──冰崎すさきかけるは何も雪国に住んでいるわけではなかった。むしろ都会──すぐそこに野山が見える環境を都会というかは個人の感性によるが──少なくとも太平洋側、雪とは無縁の生活を十六年送ってきた。そもそもこの雪景色の中に学ランは似合わない。雪国の住人であったとしたらそんなミスマッチはしないだろう。


 ならばなぜ彼はこんな極寒の地にいるのか。その答えは簡単だった。突然飛んできた、そう言わざるを得ない。授業中に寝ていたらいきなり氷点下だ。その原理まで問われたら、彼は知るわけが無い、と怒るだろう。その気力があれば、の話だが。


 だがそれを問う者もその場にはいない。周りはただただ雪景色。吹雪は耳をつんざき視界を曇らせる。だからせめて、彼はその理不尽を見守っているだろう神様とやらに叫んだ。


「……こんな異世界召喚、俺は認めねぇからな!」


 しかしその叫びも誰の耳にも届かず、ただ吹雪の音にかき消されるばかりであった。

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