第3話 部活動結成 前編

 男子は女子に勝てないという。

 口の悪さで泣かせても、暴力で泣かせても、女子が悪かったとしても男子のせいになるからだ。

 世の中、可愛い子は無敵──


 だからといって、タイプとは違う女子と付き合うのはどうなんだろうか。

 ましてや美少女。

 クラスに妬まれて、さらに友達が出来なくなるんじゃないか?

 三年間右に唯衣、左に陽葵ちゃんという生活しかできないんじゃないか?

 ……それはそれで悪くないな。


「もー! 何黙り込んでるの? あ、そうだ、付き合ってるので、私のことは陽葵って呼んでね!」

「……名前呼びはいいが、そのキャラの変わりようはなんなんだ? どう見ても別人だろ……」

「プライベートでは私こんな感じなの! 魅力的でしょ!?」


 魅力的っていうか……ビッチ感が凄いんですけど。

 彼女が……、やっと出来た彼女がビッチだったなんて……。

 どうしよう、和葉になんて言えばいいのかが分からない。


「あ、たっちゃんは部活決めた? まだだったら一緒に部活作らない?」

「また唐突だな……。まあ別にいいけどさ、具体的な案はあるのか?」

「んー、たっちゃんの趣味は?」

「な、何で俺の事聞くんだよ! 自分のしたい事でいいじゃねーか」

「っ……。少し痛いところ突かれましたね。では、明日までに決めましょう」


 どうしていきなり敬語に戻ったんだろう。

 浮かない顔してる陽葵にこれ以上なんか言うのはあれだし、ここは大人しく教室戻るか。

 陽葵と一緒に教室に戻ると……。


「この中二病野郎が! 何でお前が陽葵様とご飯食べてんだよ! いっぺん死ねー!」

「えっ! 何事だよ! てか、様って何だよ様って! 馬鹿じゃないのか? 同級生だぞ」

「同級生なんて関係ない! こうなれば陽葵様と部活一緒の所にするしかない」


 また部活の話か。

 皆部活にそんな何かしらの思い出があるのか?

 出来ることなら俺は入りたくないんだが。


「サッカー部のマネージャーにしようぜ。絶対人気出るわ」

「いや、野球部のマネージャーだろ」

「は? 写真部に入れて、写真撮りまくろう」


 こいつら好き勝手言うな……。

 そら陽葵も気が滅入るわ。

 教室の入り口で陽葵を囲むようにして居る男子達を押しのけ、陽葵は自分の席に座る。

 ……慣れからくる勇気か?

 男子達に囲まれたら怯むもんだろ普通。

 陽葵が動くと同時に皆も動くので、俺は悠々と席に座った。

 すると、前にいた唯衣が。


「何話してたの? あ、そうだ、部活何入るか決めた?」

「お前まで部活の話か。何でそんなにもこだわるんだよ」

「ダークネスだって! こだわるって言うか、一ヶ月以内に何かに入らないと退学らしいよ?」


 マジですか……。

 友達関係の事考えすぎて人の話聞いてなかったなあ。

 だから陽葵は部活の事言ってたのか、真剣に考えよう。

 悩み込む俺に、唯衣は空気を読めないのか、ずっと喋りかけてくる。


「我が考えとしては『中二病部』がいいと思う! 規定人数は四人だし、頑張って集めよっか!」

「そんなのに誰が入るっていうんだよ。ただの痛い奴集団じゃないか」

「なんてこと言うの! 我がアイデアを踏みにじるとはいい度胸だ!」


 こんなヤツほっといた方が賢明だな。

 誘ってくれた陽葵はずっと男子に囲まれてるし、これは放課後まで話せそうもないな。

 家も前だし、丁度いいか。

 そんな感じのことを考えながら、気がつけば放課後。

 前で喋る先生に手を挙げ、先生も陽葵を前に来させた。


「皆さんにお話したい事がありまして、急遽先生に時間を貰いました。いきなりで驚かれる人もいるかもしれませんが、ご了承ください」

「何言ってるだ! このクラスのアイドル、陽葵様がお話するっていうんだ、誰も何も言わないよ」

「だよな、俺もそんなこと思ってたわ」


 何このクラス、気持ち悪いんだけど。

 全然気がつかなかったが、陽葵を見る女子の目が恐ろしく鋭いんだが。

 やはり女子には嫌われてたか……。

 女子学生は怖いよな。

 何事も気にしていない陽葵は、話を続けた。


「私は、竜希さんと。ですので、私と付き合おうとして話しかけるのはやめてください」


 ……思考が追いつかないんだけど。

 ようやく理解した頃、まだ男子達は理解できてはいないようだった。

 待って、その事を今言うのか?

 絶対唯衣の耳には入らないようにしようと思っていたのに、人の考えを踏みにじるかのように好き勝手言いやがって……!

 かと言って何も言えないし、ここは見守るか。


「えー、なにか意見ある人いますか?」

「……それは本当なんですか?」

「全て本当です」

「この中二病クソ野郎が! 陽葵様をたぶらかしてお前になんのメリットがあるんだ! 付き合うためならなんでもするっていうのか!?」

「ちょ、え、何で俺が悪者扱いされてるの!? 落ち着けみんな、俺が告白したのではなく、陽葵が……いたっ、なんだよ陽葵」

「あなた、何言ってるの?」


 俺の喋っている途中に陽葵は、紙を丸めて俺に投げつけてきた。

 裏に怒りを隠しながら笑顔で。

 こいつ……俺にトラウマを植え付け的やがったな!?


「二人の会話なんてどうでもいい! おい中二病、何ていう名前か知らんが、一発殴っていいか?」

「落ち着け葉人はにん。俺も殴るから二発だ」

「いや、俺もだから三発だ」


 何こいつら、めっちゃ仲良しじゃん。

 てか、葉人って誰だよ、全く知らんヤツじゃないか。

 それよりも……、


「おいお前ら、それ以上俺を殴りたいっていうなら一体一で勝負しろ!」

「カッコイイですが、彼氏が負ける姿は見たくないのでやめてください」

「負けって決めつけやめてもらえますか!?」


 収拾がつかない……。

 どうすれば終わってくれるのかが全然わかんない。

 やはりここは大人しく殴られるしか──


 覚悟を決め、殴られるからこの話を終わらしてくれと言おうとした時、教室のドアが勢いよく開けられた。


「その決着、僕が取り持つっス!」


 そう豪語している人は、きっと他クラスであろう可愛い人だった。

 ジャージ姿を見ると、体育終わってそのまま帰ろうとしているか、部活かの二択だろう。

 女子が僕って萌えるよな……。

 水色っぽい感じの色をした、肩までかからない位の長さの髪をしている可愛い人は、話を続けた。


「可愛い子が誰かと付き合ったとしても、その付き合った相手に暴力を振るうのはいけないと思うっス」


 この子、スポーツ部活をしているのか?


「出しゃばって来るんじゃねーよ成海なるみ。これは俺達のクラスの話だろ、関係ねーヤツは出てけ」

「そういう訳にはいかないっス。僕は竜希さんをリスペクトしてるっス。引くに引けないとはこの事を言うんスね」


 俺をリスペクト……だと?

 初対面の相手にそんなことを言われてどういう顔するのが一番なんだ?

 戸惑いの顔をしていたのか、成海が話しかけてくれた。


「やっぱり僕の事は覚えてないっぽいっスね。無理もないっス、会ったことあるのはなので」


 昔?

 一体どういうことだ?


「あれっ! そこにいるのは明日葉ちゃんじゃないっスか!」

「明日葉ちゃん……? まさか、保育園の時よく遊んでた神奈月成海かんなづきなるみ!?」

「そうっス! 覚えてくれてて良かったっスわー! という訳で、そこの美人さんと明日葉ちゃんと竜希さんと僕で部活を作らないっスか?」

「規定人数達してるし、いいかもしれないですね」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 全然状況がわかんないんだが、俺たち三人は昔会ったことあるのか……?」


 俺の問いに、成海と唯衣が顔を合わせ。


「「ある(っス)よ!」」


 ハモったってことは事実なんだろうか……。


「まぁその事は後でいいや。それより、部活ってそんな簡単に作れるものなのか……?」


 これまで黙っていた先生が口を開いた。


「唯衣さんと竜希さんは部活入れないと思っていたので、大歓迎ですよ! 頑張って顧問見つけてくださいね」

「俺達そんな問題児に思われてたんですか?」

「はい!」


 包み隠さないタイプの先生ということを理解したわ。

 時には包み隠してほしいこともあるんだがな……。


「じゃあ放課後四人で帰りながら、何部にするか決めましょうか」

「「賛成(っス)!」」


 俺の意見は尊重されないんですか……。

 異色のメンバーで一体何が出来るんだ? と、聞いたいくらいだが、やる気だし、それに成海と同じ部活に入れるのは嬉しいな。

 男子一、女子三人とハーレム状態を満喫……、


「あ、僕の事忘れてるって事はまた僕を女子と勘違いしてるってことっスか? 僕っスよ、よろしくっス!」

「……。待て、事実を受け止めたくない……。じゃあお前は女子っぽい男子ってことか?」

「そうっス!」

「俺を騙しやがっなああああああ!?」


 今日一の大声を出し、学校中に響き渡った。

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