第1話 転校生の登場

 ここはまず誤解を解かなければ……!


「いや、あの、これは違うんです! ちょっと口が滑ったっていうかなんというか──」

「ブラボー! 流石我がライバルのタッキーだ! 次にいつ『暗黒物質ダークマター』をくらうのか決めようか!」

「黙ってろよ! 見てくれがいいだけのお前はよ!」


 今のは悪口になってたか?

 なってないな、確実に。

 でも、それはそれでしょうがないことなのかもしれない。

 唯衣は腰まで伸びた黒く長い髪に、黒く輝かしい眼をしていて、右眼は青いカラコンをいれているが、眼帯で見えてはいない。

 中二病の頃は、ただ唯衣の事をライバルとしか見てなかったが、卒業すると異性としか見れなくなってしまっている。

 美少女の制服姿か、こいつ俺の幼馴染なんだもんなあ。

 ラノベとかだと幼馴染と付き合うのって定番だよな……まさか俺もか!?

 いやいや、まさかそんなことあるわけ……。


「神島さん……いえ、中二病さんっで呼ぶべきでしょうか。早く席についてください」

「中二病って言わないでください!」

「ど、どうしたのタッキー? 中二病なんだから呼ばれてもいいじゃない」

「違う! 断じて違うぞ、俺は卒業したんだああああ!!」


 クラス中……いや、学年全員に聞こえたかもしれないくらいの声量で放ったその言葉。

 クラス全員ポカンと口を開けたまま、何も発さずに気まづいながら席についた。


 それから一週間、俺の話し相手は唯衣だけになってしまった。


「それでさ、お弁当とか作るの面倒だと思わな……」

「ちがーう! これは俺の望んだ高校生活じゃないぞ! 和葉になんていった? 清楚系美少女の彼女作るって言ったのに、今のこの現状は何なんだ!」


 昼食時、友達のいない俺は唯衣といつも食べていた。

 しかし、ふと思い出す。

 入学式当日、和葉に言った俺の言葉を。

 確かに俺は彼女を作ると宣言して家を出た。

 なのに、彼女どころか友達すら作れないでいるなんて情けない……。


「いきなり大声出すなんてどうしたの? 中庭だったから良かったものの、仮に教室だったらやばかったよ?」

「教室だったら大声出す訳ないだろ」

「あ、確かにそうだよね! なるほど、ちゃんと考えてたってわけか!」


 考えてないのお前だけだろうけどな。

 今は唯衣に構ってる暇はない。

 彼女、しかも俺のタイプは清楚系美少女……。

 唯衣ではダメなんだよなあ。

 いや、可愛いよ? 可愛いけどなんか違うんだよ。

 なんていうか、唯衣はビッチって感じがするからな。


 そんなこんなで教室に戻り、五限目を開始した。


 そして放課後前の帰りの会。

 いつもなら先生がどうでもいいことを言うのだが、今回は少し違った。


「つまらないことしか言わないと思われがちな先生だけど、今日はちょっと変わったことを言いましょう。明日、転校生がきまーす! しかもうちのクラスに!」

「男ですか? 女ですか?」


 如何にも変態そうな男子が聞いていた。

 こんな奴でもこの高校に受かったりするのか。

 人は見かけによらないとはこのことを言うんだろうなあ。


「なんとなんと……女の子です!」

「よっしゃきたああああああ!!」


 盛り上がってんのお前だけだよ、男子君。

 一週間経ったところで名前を全員分覚えれないし、覚える気もないので男子君で勘弁してくれ。

 四十人だぞ? 無理だろ、普通に考えて。

 八クラスまであるこの学校で、他クラスまで覚える気はさらさら無い。


「じゃ、さよならー」

「「「「さよならー」」」」


 先生の言葉を合図に、皆で帰りの挨拶をして帰ることになる。


 帰り道、俺と唯衣は家が隣同士なので登下校一緒だ。

 学校へは、自転車を使えば二十分程度で着くので、割と近いほうだ。


「彼女作りさ、焦らずいきなよ。我が『暗黒物質ダークマター』なら何回でも戦ってあげるからさ!」

「いや、戦わなくていいよ。中二病やめたって言わなかったっけ? 言ったよね? もう中二病発言はお互いやめようぜ?」

「え……いや、絶対いや! そんなこと言うなんてタッキーらしくない!」

「え、ちょ、いきなりどうしたんだよ!」


 唯衣は俺を俺らしくないと否定しながら、そして目尻に涙を浮かべながら走り去るように帰って行った。

 あれ、今俺が何かを間違えたのか?

 あれか? 唯衣にとって中二病というのは自分そのものだったから、人格を否定されたって意味でキレたのか?

 幼馴染なのに言う前に気ずけなかった俺って、幼馴染としてこれからやっていけるのだろうか。

 今は深く考えるな、現実だけをみて、明日謝ればいいことだ。


 そうこうしてるうちに家に着いた。

 すると、いつもと違うことに気づいた。


「家の前田んぼだったのに、家を建て始めてるな。てか、敷地広! 一軒家二個分くらいあるじゃないか……。ん? 隣にテントがあるな、『加美川かみかわ』さんの家なのかこの広い家は。家出来るまでテント生活……金持ちなのか違うのかよく分からんな」


 謎の加美川さんの自宅を外見だけ見て、自分の家に入った。


「お兄ちゃんおかえり。家の前凄い人来たね。あ、夕食出来てるからもう食べといて」

「お、おう、サンキュな」


 やっぱり皆あの家気にしてるのか。

 そうだよな、あんなにも大きな家だったら俺も中二病じゃなくまともに生きてたんだろうなあ。


 和葉に言われるがままご飯を食べ、風呂に入りもう寝ることにした。

 両親が帰ってくるのは十二時過ぎなので、夜は基本妹と二人だ。


 ──朝六時頃。


「あ、もう起きたの、早いわね。今すぐご飯作るから待っててね」

「別に急がなくていいよ。家出るのは七時だし」


 夜遅く帰ってくるのに、母さんは起きるのが早いな。

 それに比べ父さんは爆睡なんだろうなあ。


 なんやかんや七時になったので、学校向かうべく外に出ると。


「あ、あのタッキー、昨日は怒っちゃってごめんね……?」

「その事なら謝るべきは俺の方だ。ごめんな唯衣、お前の気持ちを考えてやれなかった幼馴染だが、これからはちゃんと考えるから仲直りしてくれるか?」

「……もちろんだよ! 何これ……めっちゃ嬉しいんだけど!」


 俺は軽く微笑みながら、嬉し泣きしながら喜ぶ唯衣を見ていた。

 なんか俺、今青春してる気がするなあ。

 学校に向かう道中、いきなり唯衣が訳の分からないことを言い出した。


「仲直りの印にさ、私タッキーのあだ名考えたんだ」

「あだ名? タッキーで十分いいじゃないか」

「それじゃ私の気が済まないの! えー、では発表します。あだ名は『電撃人間ライトニングマン』」

「絶対嫌だよ! なんだよそれ、ダサすぎるだろ!」

「私の事は『ダークネス』って呼んでいいからさ!」

「なんで自分だけそんなカッコイイあだ名にしてんだよ! 差別か? 差別だよな!?」


 俺の言葉も虚しく、聞いてもらうことができなかった。

 マジか、今度から唯衣の事をダークネスって呼んで、俺はライトニングマンって呼ばれるのか……。

 でも唯衣は今ルンルン気分だし、もう取り返しつかなさそうだよなー。

 一点気になったんだが。


「唯衣……じゃなくてダークネス。君は自分の事を我って言わないのか?」

「そこに気づいたかライトニングマン! 我というのは、人前か中二病発言する時なのだ!」

「そういう風に使い分けてたのか、なるほどな」


 人前で使うって俺の前で使ってないじゃん。

 人類じゃなくなったのか俺は。

 まぁいいや、それより転校生可愛い子だったら嬉しいな。

 そんな淡い期待を胸に、朝の会が始められた。


「先日言った通り、転校生の紹介です。じゃ、入ってきてください」


 丁寧に扉が開けられ、そこから出てきたのは、唯衣くらいの髪の長さで銀色の髪をした女子だ。

 瞳は青く、身長は中学生くらいの高さで、どこからどう見ても清楚系だ。

 清楚系美少女とはこの人の事だと瞬時に悟った。


「自己紹介お願いします」

「私の名前は加美川陽葵かみかわひまりです。よろしくお願いします」

「加美川!?」


 俺の一言なんて無視して男子一同、盛大な拍手をしたことだろう。


「加美川さんの席も決めがてら、席替えをしましょう! 皆さん、くじ引きを引いてください!」


 くじ引きか、懐かしいな──


 席は窓際の後ろから二番目。

 欲を言えば一番後ろが良かったが、まぁ窓際だし悪くはないかな。

 さて、前後と右隣は誰かな。


「あ! タッキー……ライトニングマン我の後ろなんだね、よろしくね!」

「私の前はあなたですか。先程自己紹介させてもらいました加美川です。よろしくお願いします」


 よろしくと一言言って俺は考え込んだ。

 やばい、美少女に前後囲まれた後の行動をどうするかを。


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