理想の彼女は清楚系美少女なんだが

柊木ウィング

プロローグ

 清楚系とは、基本的にお上品な人をいう。

 俺は女子全員清楚系になればいいのにって思っている。

 ビッチとかありえない。本当に女子なのか? と、言いたくなってしまう。

 男子も同様に似たようなものがある。

 それは中二病。

 中二病というものは、中学生男子に訪れる通るべき関門というものだ。

 ビッチ同様中二病もあまり良い印象はもたれていない。

 そんな中二病に憧れた時代があった。


 ──中学三年生


「俺様の右腕の封印が解かれた時……お前は死ぬ!」

「ふはははは、面白い、面白いぞ! 我が右眼の封印が解かれた時と、どっちのが凄いか勝負だ!」


 土曜の昼間の公園にて。

 人のいない公園で神島竜希かみじまたつきという名の俺と、明日葉唯衣あしたばゆいという名の幼馴染の女子が、大声を上げながら公園を占領していた。


「歯向かうとはいい度胸だ……! 普段は包帯で隠しているんだがな、解いてやろう。唯衣、お前の為にな!」

「光栄な事をしてくれるのねタッキー! じゃあ我も眼帯を外し、技を発動するとしようか!」

「「解かれし封印!!」」


 同時に包帯と眼帯を取った。


「くらえ、『電撃光線ライトニングビーム』ッッッ!! 『電撃光線ライトニングビーム』に感電しろおおお!」

「ぐ……! タッキー流石だね……! 我が必殺技くらうがいい、『暗黒物質ダークマター』ッッ! 闇に包まれろ!」

「ぐわあああ! 唯衣も腕を上げたな! 技は眼だから、腕を上げたって言い方しないかもしれないけどな!」


 右腕を唯衣の方に向けながら叫ぶ俺。

 眼帯を外し、俺に両手を向けながら叫ぶ唯衣。

 ここは現実世界。

 何も起こるはずはなく、ピーピー鳥の泣く声が響く。

 傍から見れば変人にしか映らないかもしれない。

 でも、やってる側の人間としてはとても楽しい。


 手をガッチリ握り合い、二人顔を見合わせながら一言。


「「楽しかった、ありがとう!」」


 こんな感じで俺は中学の時、殆ど唯衣としか遊ばなかった。

 周りの人達は中二病卒業を中二でしたので、俺達二人は浮いた存在になっていた。

 そんな時、一つの疑問が浮かんだ。


「中二病だから清楚系女子と話せないんじゃないか?」


 公園の帰り道、一人呟いていた。


「ただいま。なあ和葉、中二病の男をどう思う?」

「きもい」


 和葉とは俺の妹だ。

 身近の女子で清楚系と言えば和葉しか知らない。

 が、和葉とは付き合えないので、中二病のヤツをどう思うか聞いたんだが……。


「そ、そんなストレートに言う? 俺のこの右腕の包帯とかかっこよくないか? ちゃんと技もあるんだぞ、聞きたいか?」

「全く聞きたくない。中二病だとリア充になれないと思うよ。即刻卒業し、受験勉強するべきだと思うよ」

「ぐっ……痛い所ついてくるな……」


 受験勉強かー。

 めんどいけどしなきゃ人生終わっちゃうよなあ。

 和葉に言われたことを参考にし、あの日限りで唯衣と遊ぶこともなかった。

 勉強に明け暮れ、元々偏差値四十だった俺が受かった高校は『爆炎高校』という名の偏差値六十のところだ。


「努力は必ず報われるという言葉を聞いたことあったが、あれはほぼ瞞しだと思っていた」


 合格を親に伝え、和葉にも伝え、独り部屋で喜んでいた。


 ──入学式当日


「じゃ、母さん、和葉。行ってくるよ」

「お兄ちゃん中二病は卒業したの?」

「したよ、俺は高校で清楚系美少女の彼女を作るから!」

「……頑張ってね」


 どことなく元気のなさそうな『頑張ってね』という言葉。

 和葉、大丈夫だろうか。

 心配しても今は何も出来ないし、高校へ行こうかな──


「──えーと、俺のクラスは二組か。いいクラスだといいなあ」


 ガラッとドアを開け、一通りクラスを見渡す。

 やっぱり皆どこかぎこちない感じがする。

 知らない人、知らない高校にすぐ慣れろって言う方が難しいよね。

 席は一番後ろだったので、こそっと座った。

 喋れる人が周りにいなかったので、ボーッとしていると……。


「我が封印されし右眼に勝負を挑むものはいるか!?」


 聞き覚えのある声。聞き覚えのあるセリフ。

 そう、こいつは唯衣だ……。


「唯衣!? な、何してんだよこんな所で……」

「何ってタッキーについて来たんだよ、知らない人だらけの高校気まずいから」


 なんで知ってんだよ、俺がこの高校に入学するって事を。

 直感だと幼馴染だから、親から通じたのかな?

 というか、こいつと別れるためにこの高校来たのに……!

 唯衣って学力あったのか? まぁあるんだろうな。

 折角中二病卒業したんだ、こいつとは関わらないようにしていこう。


 耳を澄ませてみれば、クラスからいろんな声が聞こえてきた。


「なにあの子……。まじ引くわー」

「眼帯までしてるしな、中二病なんじゃないか?」

「高校生で中二病とかヤバすぎでしょ」


 中二病の批判ヤバすぎる……!

 よかった卒業しといて!

 なんか唯衣が気の毒になってきたが、大丈夫なのだろうか。


「タッキー! 三年間よろしくね!」


 全然大丈夫みたいだね、うん。

 そんな話をしていると、先生が教室に入ってきて、自己紹介するように促した。


「じゃあ次は神島さん、お願いします」

「ひゃい! ゴホン……えー、俺の名は神島竜希です。右腕の封印を解かさせないようにしてくださ……い」


 あれ、俺今なんつった?

 もしかして中二病発言してしまったパターン!?

 入学式早々やらかしてしまったあああ!!







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