第4話 群馬を支配する真祖

 赤崎姉妹の父親であり、自分の義理の父親である男を病院へ連れて行く。そう約束したものの、安藤は両親と一緒に暮らしておらず、一人暮らしをしていたため、段階を踏まなければならなかった。


 安藤が家に帰る。星空市で最も高いタワーマンションの最上階が彼の一人で暮らす城だった。学生の身分では分部相応に豪華な部屋に帰ると、安藤は彼のことを嫌う両親が、金を与えて贖罪しているようで嫌な気持ちになった。


「どうやって病院に連れて行くか……」


 赤崎姉妹の父親は安藤のことを嫌っていた。子供の頃、自分の顔を見て、嫌悪感を表情に張り付けていたことを思い出し、事は簡単に運ばないと悟る。


「まぁ、何とかするか……」


 考えても仕方ないと、赤崎姉妹の父親については思考を外に追いやり、テレビの電源を入れる。


「また死人病のニュースか……」


 テレビでは死人病患者が自衛隊によって拳銃で撃ち殺される映像が流れていた。どうやら自衛隊の調査団が群馬県の中へと足を踏み入れた時の映像のようだ。荒廃した街で、死人病患者がゾンビのように蠢いていた。


 群馬県にいる死人病患者たちが赤崎姉妹と違って理性を失っているのには理由があった。死人病に感染すると、一定量の血を摂取しないと、発狂し、周囲の者を襲い始める。星空病院に入院している患者たちは高額な血液を毎日接種しているため理性を保てているが、死の都と化した群馬県に人はもうほとんどいない。血を摂取できないのだから、皆ゾンビのように人間を無差別に襲うのだ。


「調査団が死人病の解決策を見つけ出してくれれば……」


 そうすれば赤崎姉妹は助かるのにと淡い希望を持ってみるが、実現は難しいと安藤は知っていた。絶望を伝えるように、テレビに映る調査団が一人、また一人と死人病患者に殺されていった。


「やはり真祖がいる限り無理なのか……」


 真祖。死人病の発症原因であり、恐ろしい力を秘めた世界に四体しかいない怪物たち。彼らが根城とした場所はすべてが死の都と化している。


 第一真祖の住むニューヨークはスラム街もオフィス街も、すべてが死の都と化している。被害者数は一〇〇万人を超える、世界最大の死の都だ。


 第二真祖はロンドンに住んでいる。バッキンガム宮殿を根城とし、自分を世界の唯一王だと自称している。もちろん自称であり、誰も彼を王だとは認めていない。


 第三真祖は中国の北京にいる。死人と人間の共存を謳い、人間の血液を税金代わりに納めさせ、代わりに真祖としての力を軍事力として分け与えているそうだ。


 そして第四真祖は日本の群馬県にいる。他の真祖たちは皆人口が多い場所を好んだが、第四真祖だけは東京ではなく、あえて群馬を選んでいる。顔も性別も年齢も不明。世界で最も謎多き真祖が第四真祖なのである。


 この四体の真祖を討伐する活動は何度も行われてきた。だが成功例は一つもない。第一真祖などニューヨークにミサイルが撃ち込まれたというのに、平気な顔をしていたという。


 日本でも群馬県に空爆をする計画が立てられたと聞いたことがあるが、結局実施はされなかった。空爆をすれば、群馬の県境を囲っている壁が破壊されるかもしれない。そうなれば発狂した死人病患者が溢れだし、パニックになる。あまりのリスクの高さと、第四真祖が比較的おとなしく、群馬県から進出してくることがないことから、計画は頓挫したと云う。


 だから今では地上部隊を群馬県に派遣し、情報を集めたり、隙あらば真祖を狩ろうとしているのだそうだ。


「まぁ、俺には関係のない遠い世界の話だ……」


 安藤はテレビの電源を切る。無音になった空間で一通のメールをスマホから送る。宛先は赤崎の父親で、明日会いに行くとだけ伝える。当たって砕けろの精神で安藤は義理の父親に会うことを決めたのだった。

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