あるいは Cat has nine lives.
【録音日:平成二十×年 二月○日】
「爪を切る。
髪を切る。
人間は、日常的に色んな物を切っています。
必要だから。
必要じゃないから。
なんとなく不快だから。
愉快だから。
玉ねぎを
良く切れる包丁を使う。そして
玉ねぎに含まれる
つまり玉ねぎの微塵切りは、玉ねぎの細胞を壊さないように切ればいい。
とても繊細な作業ですよね。
でも通常は、効率や見た目を重視します。
玉ねぎの原型がわからなくなるほど細かく切って作った料理の方が、舌触りが良く、細やかな作業をしたと評価される。
涙を流しながら、玉ねぎの繊維の方向など目もくれず、縦に、横に、切れ込みを入れて、細かくたくさん切っていく人間の方が、優れた料理人として
そして自分も、
【録音日:平成二十×年 三月△日】
「今の季節でいえば、そう、紙吹雪はどうでしょう。
折り紙を四等分に切っただけでは、ただの小さく切られた紙です。十六等分にすると更に小さな紙になりますが、雪の感じはしませんね。六十四等分はまだ大きいですが、それくらいで十分だと言う人もいるでしょう。二百五十六等分ではどうでしょう。雪の結晶よりも大きいですが、舞うと本当に雪が降っているみたいに綺麗に見えるんですよ。
四等分の紙吹雪と、二百五十六等分の紙吹雪。
同じ一枚の紙が、切る回数を増やすと全く別物のように見えますよね。
切るという行為を好きになったのは、そう、
それからずっと、自分は色んなものを切ってきました。あらゆるものを、切ってみたいと思いました。目に見えるものも、目に見えないものも。
縁を切る、って言葉がありますよね。
どうやったら縁を切れるんだろう、切れたらどうなるんだろうと、あの頃はわくわくしながら想像していました」
【録音日:平成二十×年 三月×日】
「
イギリスの
過剰な好奇心は身を滅ぼす、という意味ですが、知ってますか?
自分は、好奇心が旺盛な人間だっただけだと思います。
切りたい。切ってみたい。切ったらどうなるか見てみたい。
友人と呼べる人間はいなかったので、同級生に髪の毛や爪を切らせて欲しいとお願いした時は、気味悪がられて縁が切れました。
人の縁は、たった一言、些細な行動でも、あっさり切れるんですね。
家族の縁は、なかなか切れないものですが。
今回の事件で、やっと切れたのではないかと思います。
切る、という行為は、普通の生活の中に存在します。
包丁と玉ねぎ。
ごくごく、ありふれたものですよね。
切るものと、切られるもの。
それらを、置き換えてみるとどうなるか。
玉ねぎで紙吹雪を作ることや、包丁で鋏をつくることは難しいですが。
玉ねぎのみじん切りを作るのに
紙吹雪を作るのに包丁を使う。
そういうことは、出来なくはないな、と気が付いてしまったんです」
私は録音機を止めて、長いため息を吐いた。
スグロクハヅキは、淡々と切ることについて話し続けた。
『連続バラバラ殺人事件』の容疑者として逮捕されたスグロクは、すべての殺人の容疑を認めている。
このような場合、弁護士がする仕事は検察の求刑をどれだけ軽くできるか、というところだが。
玉ねぎや紙を切るように人間を切り刻んだスグロクの普通とは何なのか。少なくとも私の知っている普通からは
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