真冬の付き合い方

 冬になると、周りの音を雪が吸収してしまう。

 夏の雨は、雨粒が建物や傘や地面に当たった、雨音がするけれど。

 雪は音を立てず、静かに落ちてくる。

 そして静かに音を阻害する。


「明日さぁ」

「なにぃ?」

「明日さぁ!」


 雪道を歩く僕たちの声は、大きい。

 すぐ隣を、ぶつかりそうな距離で歩いているのに。

 ふたりともコートのフードを被っているせいもある。

 彼女のつけまつ毛には、雪が溶けた水滴が付いていた。


「明日もさぁ、大雪警報でてるからさぁ! 出かけるの今度にしよう!」

「いいよ! うちも、その方がいい!」

「じゃあさぁ、明日は、そっちに行こうか?」

「いいよ! 雪はねしたらね!」


 週末に予定されていたクリスマスのイベントに、一緒に行こうと約束していたけれど。

 雪国に住んでいると、イベントよりも身の安全を優先することが、冬になると度々起こる。

 バスや列車などの公共機関はわりと平常通りに運行しているけれど。自分の家から道路に出るまでが雪で埋もれてしまっては、どうにもならない。

 学校が終わったこの時間から既に、雪は足首くらいまで積もっている。この調子で降り続ければ、明日の朝には膝の上までは積もりそうだ。


 暗くなるのが早いこの時期。

 遊ぶ時間も出かける時間も短くなる。

 みんな、長い冬を耐え忍ぶ。

 でも僕らはそれを越えて行く。


「雪はね、手伝いに行くよ! うちからスコップ持ってくわ!」

「ありがとう! ママも助かると思う!」


 彼女の家の前。

 少しだけ、距離を縮めて、僕はいつもの声で言う。


「また明日ね」


 雪に阻害されないように。

 僕の声が、真っすぐ君に届くように。


「うん! 待ってるよぉ!」


 振り返った彼女の笑顔に、僕は手を振った。

 どんな雪が積もっても、明日も君に会いに行くよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る