第十八章 <Ⅰ-2>
「なんで海なんだろう?」
「――ここも夢なのかな?」
「そりゃ夢だよ!――これが現実なら溺れてるよ!」
「あ、そうか!」 また母が笑う。
つられて
「――ママってさ、天然だったんだね」 林が苦笑する。
「え?」 沙羅が目を
「自覚してないの?」
「……」
二人の沈んでゆくさきに、絵の具箱からこぼれでたような、赤や青や白や黄色や緑色のタツノオトシゴが、にぎやかに群れていた。
脳のなかの
「くすぐったい」 頬にキスされた沙羅が笑っている。
「変な夢」 林がつぶやく。
「ごめん。私の夢かなあ――」 沙羅が首をすくめた。
「わたしの夢かも」 林はくすくす笑った。
隣で笑っているのは、わたしのママなんだけど。
はじめて沙羅という女の子に出会った気がした。
夢見がちで純粋で、つらいことがあっても一人で胸にため込んで、ひとに涙を見せられない優しい女の子に。
「林がいなかったら、勝てなかったね!」
ふいに沙羅が娘の手をぎゅっと握りしめる。
焼け
「これって、勝ったの?」
「勝ったよ!――だって、なんともないもの!」
母が機嫌の良い猫のように目を細める。
無計画に突っ込もうとしたくせに、この人は。
「――そうかな?」
たしかにどこも痛くないし、母の笑顔はまぶしいほどだけど。
林には、なにがどう勝ったのか、よくわからない。
「勝ったのよ。ポンヌフが守ってくれたから――」
沙羅がほろほろと涙ぐむ。
「ちがうよ? 絶対、ママのせいじゃないからね!」
泣かないでよ、と言いながら、林も涙があふれてきて止まらない。
「ごめんね。林。ごめんね」
「ちがうってば!」
高い段丘に白い砂がふりつもり、
崖の先端からは緑の海藻がやさしげにたなびき、正体は分からないが、ピンクや黄色の花畑にみえるものが広がっている。
この場所から、はるか遠い海面を眺めようとすると、
珊瑚の森からチラチラと点滅する小魚の群れが現れて、風に散る木の葉のように二人の間を泳いでいった。
「ママ! あれ、見て!」
先に見つけたのは林だった。
「――うそでしょ?」
沙羅が目を
珊瑚の森に囲まれた谷間に、見覚えのある二階家が建っていた。
「りーん! おねえちゃーん!」
二階の出窓から、
その腕には、子グマのぬいぐるみが抱かれていた。
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