第十八章 夢
第十八章 <Ⅰ-1>
まだ夢を見ているのだと思った。
その後ろ姿を追いかけるように、金色の泡が流れてゆく。
頭を下に向けて沈降しながら、林は
「――ん? あれ?」
「林、起きた?」
手を
あたたかな波に
林の黒髪と沙羅の栗色の髪から、細かな気泡が散った。
「ママ。――わたし、寝てた?」
「うん。ママもなんだかウトウトしてたみたい」
沙羅と林は、夢見るような
銀色の長いリボンのようなものが、
近づいてきたのを見ると、体長10メートルを超える巨大魚だった。
「リュウグウノツカイだよ、ママ!」
林が頬を染めてさけぶ。
リュウグウノツカイはビックリしたような丸い目で林と沙羅を見たが、これが地顔らしい。赤い背びれを揺らして寄ってくると、林の膝を口の先でつついた。
「かわいい!」 林が歓声をあげる。
「あれ、深海魚よね」
沙羅は
リュウグウノツカイのあとを追いかけるように、体長15センチほどの、ずんぐりした魚が数匹連れ立てやってきた。
「デメニギスだ! ママ、大変! デメニギス!」
透明なコックピットに若葉色の目を持つデメニギスは、ふよふよと沈んだり浮いたりをくり返しながら泳ぎ寄り、差し出された手のひらに乗って林を見つめた。
「どうしよう! かわい過ぎる!」
林が足をバタバタさせたので、デメニギスたちは驚いて逃げていった。
「林てば」 沙羅が吹き出す。
それから、夢見るような瞳をしたサメが、沙羅と林にウインクを投げて通り過ぎ、小柄なサメの背びれが見えなくなると、ムーミン顔のまるいタコたちが、不思議な生き物を見る眼差しで二人を眺めながら、波のうねりに逆らわずに流されていった。
「ママ。――ここ、どこだろう?」
花束そっくりのエビのような生き物を見送りながら、林がつぶやいた。
「海の中じゃない?」
「それは――見ればわかる」
「そうか!」 母がころころと笑う。
深海に光は差さないはずなのだが、どこまで深く沈んでいっても、ここでは
<註・深海の生き物たち>
・リュウグウノツカイ……長い魚
・デメニギス……半透明
・ユメザメ……瞬きをするサメ
・メンダコ……ムーミン顔のタコ
・トリノアシ……花束にしかみえないエビ(実はエビではありません)
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