第十六章 <Ⅲ>
そして、あの子のことだから、そこに咲いていた花を摘もうとしたのだろう。
小川は梅雨で水かさが増して、
木槿はきっと足を滑らせて、流れに落ちて溺れたのだ。
あのとき、私がもっと捜していれば、あの子は助かったのに――。
(――ちがうでしょ)
(おねえちゃんは、わざと違う
むくり、とその顔が上がる。
感情の無い瞳が沙羅を見つめる。
「木槿……」
沙羅の顔が蒼白になる。
(おねえちゃんは、わたしが邪魔だから、死ねばいいと思ってたんだよね)
「そんな……。私は……」
心を凍りつかせるような視線に耐えかねて、沙羅は目を閉じる。
もう何も見たくなかった。
――そうね。そうだった。
『わたしは鬼なんだ。鬼だったんだ。』
あの頃、私は心の底に深い穴を掘って叫んでいたのだ。
――木槿なんか死ねばいいのに、と。
私はわざと、一昨年の梅酒の瓶を指差したのだ。
アルコールに弱い木槿が飲めば、死ぬかもしれないから。
自分がどれほど後悔するかも知らずに。
自分がどれほど木槿を愛しているかも忘れて。
私は木槿を殺してしまった。
『明日もこんなにつらいなら、死んでしまおうと宵待ち姫は思いました。』
固く抱きしめていた木槿の冷たい
絶望のたゆたう暗い深みへ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます