第十七章 <Ⅱ>
「
沙羅は、あたたかい胸に濡れた頬を
この子は、いつの間に私より背が伸びたんだろう。
「ママ。――わからないって、怖いんだよ」
母を抱いて林がつぶやく。
「おねえちゃんは、どうして死んじゃったんだろう? ――わからないから、ママもわたしも、怖い夢を見るようになったんだよ」
――でも、わたしたちは、悔やむことをやめられるだろうか
(林。おねえちゃん。――ねえ、こっちを向いて)
二人の背後の暗闇から、
「だまれ!」
白い翼をひるがえして振りかえった
「バケモノ! わたしのママに触るな!」
――すると。
木槿の形をしていたそれは、ぐずり と溶けて形を失い、それまで
どろりと粘着質を帯びた血は、意志をもつように、だらだらと地を
その有様は、まるで焼け
(林。行かないで)
それが
(イカナイデ) (イカナイデ) (イカナイデ)
うめき声が増幅されて、
(行かないで。そばにいて)
(ソバニイテ) (ソバニイテ) (ソバニイテ)
激しい地鳴りとともに、噴火口からマグマが
真紅と金色が
異様な臭気の黒煙が、二人のまわりで渦を巻いた。
「林。逃げて!」
沙羅が叫んだ。そのとき。
火口が
打ち上げ花火のように、
闇に赤い亀裂が走る。
天地を揺るがす
ズンと空気を震わせて、マグマが高く噴き上がる。
地球の赤い
「――! ――!」
悲鳴は誰の耳にも届かない。
大地の鳴動は、もはや聴覚の許容範囲を越えていた。
林は沙羅を腕に抱きしめて、力の限り羽ばたいた。
マグマの攻撃をかわしても、二度。三度。――また来る!
火山弾が
肌を溶かすような熱風が押し寄せる。
胸を焼く
だが、林の腕は沙羅を抱いて離さなかった。
――ふざけんな。こんなやつに負けるもんか!
「あつ! あつつ!」
翼の先が焦げて、ポンヌフが悲鳴をあげた。
「だめよ。林。ママを離して! 一人で逃げなさい!」
沙羅が泣きさけんだ。
「いやだ! 絶対はなさない!」
わたしは、もっと速く飛べる。――もっと速く。
こんなもんじゃない。もっと飛べる。
なにがあっても、ママはわたしが守るんだ!
絶え間なく襲ってくるマグマをかいくぐって、林は飛び続けた。
バケモノが咆えた。
六千度を越えたマグマが、白熱して噴きあがる。
(こんなに愛してるのに、どうして背を向けるの? こっちを見て。林)
バケモノが
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