Diary 9
〈白銀 林の日記〉 十月二十三日(日)
ふるさとの村で、海底へゆく夢を見た。
正確に言えば、そこはおねえちゃんの夢だった。
だから、わたしとママは、おねえちゃんの夢のなかへお邪魔したことになる。
パパが歓喜しそうな深い海の底の
ポンヌフが「あっち」と呼んでいた、燃えてなくなってしまった二階家だ。
おねえちゃんとポンヌフは、いまでも、あの子ども部屋で暮らしていた。
わたしとママとおねえちゃんは、思いきりいっぱい話をした。
ママとわたしとポンヌフが、噴火したマグマと
おねえちゃんは大興奮して「最初から、もう一回聴かせて!」とせがんだ。
それから、わたしの仲良しの話や、パパの新しいジョークとか。
おねえちゃんとママとわたしは、代わりばんこに話しては、笑いころげた。
わたしは、どうして死んじゃったのか、おねえちゃんに訊いてみた。
そしたら、おねえちゃんがぺろっと舌を出した。
夕暮れ近くに宵待ち橋に行ったら、白くてきれいな花がいっぱい咲いてたの。
はじめて見る花だったのよ。うれしくってさ。
花束にして持って帰ろうと思って、夢中で摘んだの。
もうすぐ晩御飯の時間だったしね。
そうなの。おなかが空いてたの。
この花、食べられるのかなと思ったわけよ。
葉っぱがパセリにそっくりだったから、美味しいのかなと思って。
変な匂いがしたんだよね。
でも、こういうのが逆に体にいいんじゃないかなと思って。
花束を作りながら食べちゃったの。
ものすごくイヤな味がした。だからゴクッと飲み込んじゃったのね。
そしたら、だんだん気持ちが悪くなってきて。あとは覚えてないの。
あれって、なんだったのかな。
――おばかさん。それは、ドクニンジンよ。
ママがおねえちゃんを抱きしめて、泣いた。
――保健所の回覧板に書いてあったじゃないの。
――だって、回覧板なんか読んでなかったんだもん。
おねえちゃんはママに謝ったけれど、ママはなかなか泣きやまなかった。
わたしは、昔のままのパパの本棚から植物図鑑を出して調べた。
ソクラテスを殺したドクニンジンは、葉にも花にも猛毒がある。
食べると一時間足らずで昏睡状態に陥り、すぐに手当をしなければ死に至る。
なぞの真相は、あの花束だった。
最後にわたしは、ポンヌフとハグをした。
――リン。ぼくのシッポ、見た?
うとうとしているポンヌフがつぶやいた。お昼寝をする時間だったから。
――見たよ。かわいいね。
わたしはポンヌフのシッポにそっと触った。
――うふふん。
子グマは眠ってしまった。
ポンヌフ、守ってくれて、ありがとう。
わたしはもう、ポンヌフがいなくても大丈夫だから。
これからも、おねえちゃんを守ってね。
ときどき夢で会えたらいいな。
――会えるよ。
夢心地のポンヌフが笑った。
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