第十五章 <Ⅱ-1>
――ここはどこ? だれの夢?
ごうごうと不気味な音が空気を震わせている。
『
――どうしてこんなときに、あの絵本を思い出すのだろう。
沙羅は何度も娘の名を呼んだ。
返事をして。お願いだから。
返事をして。どこにも行かないで。
どこからも、こたえは返らない。
沙羅は一人置き去りにされたような気がした。
可愛かった林はどこにいったのだろう。
いつからあの子は、あんなに冷たい声で話すようになったのだろう。
すべて、わたしのせいだろうか。
私は、いつまでも
林の見ているものが、自分には見えないのが
――林。
ああ――。どこか遠くで
あの人のそばでは、私はいつも頬笑んでいなければならない。
あの人の目には、ほんとうの私は見えていない。――見せてはいけない。
あの人は若い頃から変わらない。
惜しみなく努力する、その喜びにあふれて生きている。
自分の目標を追いかけて、はるか遠くへ駆けていってしまう。
――眞彦さん。
沙羅は呼吸が苦しくなって胸をおさえた。
私は一人残されても、
でも、私はそんなに強くない。私はそんなに――。
――キライ! 二人ともキライ!
闇の奧で流す涙は、誰にも見えなかった。
眞彦さんも、林も、私とは違う景色を眺めている。
私の孤独は、いつはじまったのだろう。
自分を呼ぶ声に背を向けて、沙羅は深い闇のなかへ歩きだした。
『誰もしらない山の奧へゆこう。
暗い森の径をとぼとぼと、
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