第十三章 <Ⅴー3>
「はい! 参りましょう!」
「どうぞ、みなさん!」
「え? 先生の車で行くの?」
あたしたちは顔を見合わせる。
「八人乗りだぞ」
権平先生がニコニコとうなずく。
「では、運転は僕に任せてもらいましょうか」
パパが運転席に歩み寄る。
「そんな!
権平先生が高速で腕を振り回す。――やめなよ。なんかの必殺技みたいだから。
「いやいや。慣れた道ですから。ナビがあっても、あの辺りの山道は厳しいですよ」
笑顔のパパが手のひらを差し出す。
「うっ! そうですか? ありがたいです! ――お願いします」
権平先生が恐縮しつつ、黒い卵形のリモコンキーを渡す。
「おお、いいねえ。この車は!」
パパがはしゃいで乗り込む。この人はいつでも楽しそうだ。
照れ臭そうに頭を掻きながら権平先生が、あたしたちを呼ぶ。
「ほら、みんな。はやく乗れ!」
ちょこちょこと走り寄った
「ちょっと! 先生は、そこじゃないでしょ!」
「え、なんで?」
「お母さん! さあ、どうぞ!」
「おい? ――だって俺が運転のサポートを……」
「いいから黙れ! ――このタコ!」
青深が小声でさえぎる。
「タコ――?」
権平先生が愛くるしいまでにパッチリした目を
「――先生、ちょっと!」
陽蕗子が先生のジャージを引っ張る。ドワーフウサギの
「え、なに?」
「――いいから、ちょっと来いっ!」
無敵番長の
あたしと林は、わけの分からぬまま、その後についていった。
「なんなんだよ?」
――ドラマで見たことある。これ、殺されるパターンだ。
「先生! よく見なさいよ、あのラブラブな二人を! 邪魔したらダメでしょ!」
陽蕗子が両方の人差し指で怒り眉毛を作って、頬をふくらませる。
「バカじゃねえのか? どんだけ視覚情報が足りないんだ!」
青深が身も
「リンリンのパパとママ、会ったときから、ずっと手つないでるんだからね!」
陽蕗子が先生の耳元でささやく。
「……そうなのか?」
権平先生がのけぞって青ざめた。
「手をつないでいない時も、どこかしら触ってるよなー」
青深がため息混じりに補足する。
「そうよ! ママは、パパの上着のすそとか」
「パパは、ママのコートの襟とかなー」
頭を抱える担任の隣で、あたしもショックを受けている。
そんなのイチイチ見てないし!
「うぐぐ。そうだったのか――」
「お前も気づいてねえのかよっ!」
いつもなノリで
「ったく! そんなだから、権平は、いつまでもカノジョが出来ねえんだよ」
青深が吐き捨てるように
「ええーっ?」
権平先生が悲しい声で絶叫する。
「おーい。どうしたの? そろそろ行こうよ!」
運転席から、パパが陽気に呼んでいる。
「はい! ただいま参ります!」
先生の声が裏返える。かなり膝にきているようで、車に戻る足元が
「――申しわけありません。うちの両親が御迷惑を……」
先生の後を追いながら、林が沈痛な面持ちで頭を下げた。
「気にするな。リンリン。私たちはチームだ!」
青深がサムズアップする。
「そのチーム、俺も入れてくれ――」
権平先生が涙目でつぶやく。
先生、大丈夫だ。あなたは一人じゃないぞ。
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