第十三章 <Ⅴ-1>
* * *
「――そうか。それなら、なおさら
林のパパが、ママに頬笑みかけた。
「ええ。そうよね、きっと――」
ママの心細げな眼差しを、パパが目を細めて受けとめる。
「心配いらないよ。あの場所から、もう一度はじめるのさ。林も、君も、僕もね」
パパの視線の先には、泣きやんだ林が佇んでいる。
林のそばには、
ターミナルを囲むように植えられたナンキンハゼの紅葉した梢を、シジュウカラの群れが移動している。楽しげなさえずり声が秋晴れの空に飛び立ってゆく。
「私も、そうするべきだと思います!」
林を背に
「どんなに辛くても、自分の目で現実を見なければ、ここが納得できません」
青深は右手の親指で、左胸をさした。
「同感だ! 素晴らしい!」
林のパパが青深に握手を求めた。
この二人はどこか似ている。きっと世の中でバリバリに役に立つ人たちだ。
あたしはどちらかというと、ママの方にシンパシーを感じるけれども。
「林。――ひとつだけ話しておきたいんだ。聞いてくれる?」
パパがふと真顔になって、林の視線をとらえた。
「なに、パパ?」
パパは左手の人差し指を、自分のこめかみにあてる。
「林。――記憶というものはウソをつくんだ」
「え?」 林が目を見開く。
「人間の脳は、常に自分を正当化しようとする本能に従っている。その結果、記憶は恐ろしく
「――うん。そうかも」
林が目を伏せてうなずいた。
「
「なるほど。そういう可能性もありますね!」
でもパパが珍しく笑っていない。
「さっき君は『見た』と言ったが、見るとは
「――博士! 少し、すこしお待ちください!」
「この子たちはまだ高校一年ですので、ここは
「なるほど! これは失敬した!」
パパはデイパックからB4のノートを取り出すと、胸元に挿したペンで大きく図式しはじめた。
いやいやいや、板書の有り無しの問題じゃなくて! 誰かとめて!
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