第十二章 <Ⅲー1>
それまで笑い転げていた、あたしは思わず息を止める。――く、苦しい。
トランプを置いて、青深がそっと立ち上がる。
足音を忍ばせて眠っているパパに近づくと、寝息をうかがった。
長い足を伸ばして、完全に眠っているように見える。
青深は音を立てずに戻ってくると、声をひそめて林に話しかけた。
「リンリン。いまなら聞いてもいいか? この旅の理由を」
林がはっと目を上げて、青深の目を見る。そして、うなずく。
青深に手招きされて、あたしたちは座席から身を乗り出し、お互いの顔を寄せ合った。
「
林は伏し目がちに話し出した。
「その家は、うちの家族が引越した後で、火事になって燃えてしまったの」
「ええっ、火事?」
「そう。そのときはもう誰も住んでいない空き家だったんだけど――庭の
あたしは落雷の
「リンリン。――元の家が無くても、そこに行きたいのか?」
青深が眉を寄せて尋ねる。
「うん」
林が唇を結んで、うなずく。
「あの家を引越す日に約束したの。必ず帰ってくるからって」
「誰と?」
陽蕗子が訊くと、林がとても困った顔をした。
「――どうしたの?」
林はうつむいて、手のひらで頬を覆った。
「――えっと。……すごくバカみたいな話なんだけど。みんながもし、キモイと思ったら、この先はもう、つきあってくれなくていいからね」
「おまえ、なに言ってんだよ。ここまで来て!」
青深がスゴむ。
「全然平気だよおー」
陽蕗子が頬笑む。
「むしろ楽しみなんだけど」
あたしは本音しか語らない。
「ありがとう」
林は目をうるませて頬笑み、口を開く。
「そのとき約束した相手は――。わたしが大事にしてたぬいぐるみと――わたしが大好きだった人の――幻なの」
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