第十二章 <Ⅱ>
「地球の表面は、何枚かの岩盤のプレートで覆われているのは知ってるかな?」
パパの輝く瞳がこちらをのぞきこむ。
――あたしは、なにかの地雷を踏んでしまったのかも。
「あ、はい。なんとなく」
「ゆで卵の殻にヒビが入っているところを想像してごらん。大きな
――宇宙に浮かぶ、でっかいゆで卵?
「それでね、このプレートってやつらは、じっとしてないで流れてるんだ!」
「岩なのに?」
「そうなんだよ! 面白いだろ?」
パパは目を細めて両手を広げるので、あたしたちはうなずくしかない。
――なんでそんなに嬉しそうなの?
「海から大陸の下へ向かって流れるプレートを海洋プレートというんだ。その海洋プレートが地球の内部へ沈み込む場所がある。そいつが、
パパは話しながら上着を脱いで立ち上がった。――なぜ?
「海洋プレートが海溝へと沈み込むとき、海溝の上にせり出している大陸プレートの端も、ジワジワと地の底へ巻き込まれる。重さは大陸プレートの方が軽いんだ。イヤイヤ引きずり込まれた大陸プレートは、限界まで沈んだところで、バネみたいに、いきなりバンと跳ね上がる。その揺れが地震になるんだ。――これが海溝型地震!」
パパは自分の両腕で、沈む海洋プレートと跳ね上がる大陸プレートを表現してみせる。
「おおー!」 「なるほど!」 「そうだったんだ!」
プレートより、パパの楽しげで情熱的な話し方に感動する。
きっと自分の好きな道を突き進んでる人なんだろうな。
「面白いのはその先だ! 最近の研究では、海溝へと沈み込む海洋プレートが、地球内部へ大量の海水を運ぶことがわかった! その量は年間25億トンだ。つまり、地球内部には
「へえー。知らなかった!」
「面白い!」
さっきまで
「そうだろう? そうなるとだ。この地球上に海洋が存在できるのは、あと六億年という試算もあるんだ。とすれば……」
「パパ! 地球の話はもういいから!」
止まらないパパを、林が現実に引き戻す。
「パパ。休暇なんか取って大丈夫なの? 今度の責任者だったんでしょう?」
林がなじるように言うと、パパが肩をすくめる。
「彼らは実に優秀でね。どうやらボスが不在の方が仕事がはかどるらしい。それに貴重なアドバイスも貰った。お告げというべきか」
「なにそれ」
「バージェス博士を知ってるかい? 彼の岩石ジョークは最高なんだが、まあ、いいや。とにかく、彼がこう言ったんだ。『ボス。こんなときは、何もかも放り出して帰りたまえ』とね。で、僕は答えた。『放り出したいのは山々なんだが、未処理の案件が、僕をきつく抱きしめて離してくれないのさ』ってね。すると彼が言うんだ。『ボス。その古いジョークのおかげで、俺は愛する犬に去られたよ』『なんだって? 君のウェスティーにかい?』『そうさ。もちろん妻と子どもたちは、犬についていった』――僕が笑おうとしたら、彼の目が笑ってなかったんだ。あれは、ちょいと怖かったな。それで直ちに休暇を取ったというわけさ」
パパは一人で膝をたたいて笑っている。――ここ、リアクションどうすんだ?
「それって、家族に我慢させてきた自覚があるってこと?」
林のツッコミがとげとげしい。
「もちろん反省してるさ。我が家に犬がいたら危なかったかな。君はどう思う?」
父が水を向けると、娘が肩をすくめる。
「たぶん大丈夫。うちのママって、笑えるくらいパパが大好きだから。でも――」
「でも?」
「最近は、わたしが疲れさせてる」
林がため息をつくと、パパが娘の肩を揺すって朗らかに笑った。
「そこは、君が気にしなくていい! 親ってものは、子どもの心配をするのが商売なんだ」
「それ、ほとんど家にいない人が言う?」
「しまった。墓穴を掘った!」
パパが自分のおでこをぴしゃりとはたく。
――この親子、実は仲良くないか。
車窓の外に深い木立が迫ってくる。
食事が済んで、あたしたちはトランプをはじめた。
パパも誘ったけど「おじさんはちょっと眠いから」とか言って、離れた席に移って目をつむってしまった。
終点の
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