第十三章 <Ⅱ>
「
ママの顔から血の気が引いた。
パパが腕をまわして、その細い背中を支える。
ポンヌフを抱きしめた
「学校に行かなくなってから、何度もおねえちゃんが夢に出てきたの。いつもは怖い夢だったけど、入院した日の夢は、おねえちゃんとポンヌフがあの家で待ってる夢だった」
――なんだか、林の雰囲気が変わった。
その眼差しにこもる力に、なにか大事な話をしたいんだなって思った。
パパとママは、すこし戸惑った面持ちで林を見つめている。
「あのさ、私たちはあっちに行ってようか?」
「ううん。いいの。――てか、そばにいて!」
振り返った林が、うるんだ眼差しをこちらに投げかけた。
「さっきは話せなかったことなの。みんなにも、もう隠していたくないから!」
青深が真っ先に
「まかせろ! 私たちはチームだ!」
「リンリン、ここにいるよっ!」
「がんばれ、リンリン!」
あたしが、その手にタッチすると、林が口角を上げて
「――いままで、ママとパパに黙っていたことがあります」
林はパパとママに向き直った。
あたしたちチームは、林を応援する気持ちで後ろに並んだ。
「林、なにを聞かせてくれるんだい?」
ママの背中に腕をまわしたパパが、首を
「パパ。ママ。――わたしは、おねえちゃんを見殺しにしました」
陽蕗子が手にしていたペットボトルを落とした。
青深が息を引いたまま、かたまっている。
あたしは風になびく林の髪を見ていた。――リンリン?
「なんだって――?」 「林――?」
林のパパとママが顔色を失って立ちすくんでいる。
誰もなにも言わない。
朝日の粒子が歩道に降る音が聞こえるような気がした。
モズが高く鳴いた。
林が頭を振って、長い髪を背に払った。
「あの日、おねえちゃんは、花束を抱いて水面に仰向けに浮かんでいました。
濃紺の
おねえちゃんは、きれいな白い花を腕いっぱいに抱えてました。
小川のしずかな水面にも、その花と緑の葉がたくさん浮いていました」
林は、あごを上げて空を見た。
「長い間、すっかり忘れていたけれど、或る日、突然に思い出したのです。
ミレイのオフィーリアの絵を見たときに。
高校受験の済んだ週末に、友だちと行った、あの美術展で。
あの絵を見たとき、いきなり記憶が甦りました。
あの日見たことを、はっきりと思い出しました」
林の肩に力がこもる。――ああ、泣くまいとしているんだ。
「わたしは、おねえちゃんが眠ってると思いました。
とっても気持ちが良さそうだったから。
その姿があまりにきれいで、そのまましばらく見とれていました。
それから――。それから、うちに帰ってきてしまったのです。
わたしは、そのことを誰にも言いませんでした。
そして、そのまま忘れてしまいました。
きっと、すぐに知らせれば、きっとおねえちゃんは助かったのに。
だから、おねえちゃんが死んだのは、わたしのせいです。
パパ。ママ。――ごめんなさい」
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