『宵待ち姫』前編 <参>
ときどき宵待ち姫の名を呼ぶ声が、風に乗って聞こえてきました。
どの声が誰の声か、宵待ち姫にはすぐわかりました。
お父さんやお母さんや村のみんなが、自分を探してくれているのでした。
しかし、こんな姿で出ていったら、また鬼だと言われるでしょう。
石をぶつけて
宵待ち姫は、恐くてみんなの前に出られませんでした。
みんなのすぐ近くにいるのに、宵待ち姫は一人ぼっちでした。
次の日のこと。
宵待ち姫が木陰のやぶに隠れていると、二人の
「宵待ち姫は、まだ見つからないそうだな」
すぐそこに宵待ち姫がいるとも知らずに、木樵たちは宵待ち姫のうわさをしていました。
「あの子は鬼に喰われたんだろうよ。かわいそうに」
「鬼の
「なんでまた、鬼のした悪さを、頑固長者がかぶるんだね?」
「自分は宵待ち姫だ、と鬼が言ったんだとさ。あの子の声で」
「そんなもの、鬼が
「みんなで、そう言ったんだがなあ。頑固長者もお嫁さまも、あの声は宵待ち姫だった、うちの娘の声だったと言って、譲らないのさ」
片方の木樵はため息をつき、もう片方の木樵は鼻をすすりました。
「かわいい娘が死んだとは思いたくないんだろうなあ。気の毒に」
「これで頑固長者も
そして、木樵たちの声は
宵待ち姫は、いきなり夢から覚めたような心持ちになりました。
村を荒らしたのは、宵待ち姫です。
お父さんやお母さんや村のみんなを泣かせたのは、宵待ち姫です。
あれは夢ではないのです。
わたしは鬼なんだ。鬼だったんだ。
それなのに、お父さんとお母さんは、わたしを探してくれるんだ。
明日もこんなにつらいなら、死んでしまおうと宵待ち姫は思いました。
でも、鬼の姿で死んでいるのを、お父さんとお母さんに見せたくはありません。
誰もしらない山の奧へゆこう。
暗い森の径をとぼとぼと、宵待ち姫は歩いてゆきました。
(後編につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます