第十章 約束
第十章 <Ⅰ>
気づけば呼吸が楽になったように思える。相談して良かったと思った。
いつまでも
残り物で夕食を済ませると、バスルームに行き、湯船の給湯栓を開けた。
お湯の溜まる音を聞きながら、洗面台で髪を
鏡に映る自分の顔に、
あの頃よく、双子のように似ていると言われた
生きていたら、あの子は二十六歳だ。
小さい頃は、いつも私を「おねえちゃん」と呼んでくれた。
林が木槿を「おねえちゃん」と呼ぶようになったとき、なんだかくすぐったい気分がしたものだった。
あれからもう十年。
沙羅は深く息を吐いて、まぶたを閉じる。
誰もいない家に、水音だけが響いている。
さっきは、どうしても権平先生に言えないことがあった。
木槿の
「あのね、ママ。おねえちゃん、パパのことが好きなんだって。でも誰にも内緒なんだよ」
あのときの胸が凍りつくような戦慄。
――この子は本当に死者と話しているのだ、と思った。
木槿の秘めた恋に気づいていたのは、私一人だった。
夫をそっと見つめる仕草で、そうと知れた。
だが、夫にも誰にも告げず、私は気づかない振りをした。
妹のようなあの子の初恋だったから。
あれはほんとうに事故だったのだろうか。
あの子は、お気に入りの紺色の麻のワンピースと白いレースのショールを身につけて、白い花を腕一杯に抱いて、小川に浮いていたのだ。
まるで、絶望したオフィーリアのように。
給湯機のアラームが鳴った。
まぶたを開けると、鏡の中から木槿の目がこちらを見つめていた。
――おねえちゃん。
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