第七章 <Ⅱ>
「おねえちゃん!」
濃紺の
瞳にあどけなさを残した可憐な乙女は、驚くほど
「おねえちゃん。やっぱり生きてたんだね」
子ども部屋の窓辺に立つ
――花束を抱いて水面に浮かんでいたんだよ。
あのとき幼い自分が目にしたものは、恐ろしい夢だったんだ。
「ごめんなさい。一人ぼっちで置き去りにして。ごめんなさい。約束を破って」
いつのまにか背中の羽を失った林は、楓の下で声の限りに泣いた。
「ごめんなさい。おねえちゃんは、ずっとここで待っていてくれたのに」
だが、林がいくら叫んでも、その人は口を開かない。
昔と変わらぬ頬笑みをうかべて、林を見つめるばかりだった。
片腕にポンヌフを、もう一方の腕には大判の古い絵本を抱えている。
「あ、その本――」
――『
あの頃からずっと林の宝物だった。
ポンヌフをここに置いていったときも、この本だけは手放さなかった。
もう長いこと手に取っていないけれど。いまも自分の本棚におさまっているはずだった。
――あれ、おかしいな。
どうして、おねえちゃんも『宵待ち姫』を持っているんだろう?
そのとき突然、ぐらりとめまいがして、林の視界を暗灰色のもやが覆い隠した。
温かな光に包まれた子ども部屋が、たちまち彼方へと遠ざかってゆく。
遠くから、自分の名を呼ぶ母の声が聞こえる。
――これも夢なの?
覚醒と
――待っててね。きっと、すぐに帰ってくるから。
今度こそ、きっと帰ってくるから。
絶対、約束するから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます