第四章 <Ⅳ>
「……おかしな子」
あの子はだんだん扱いにくくなってくる。
この間まで、素直な
反抗期の娘って、こんなものなのかしら。
「ああ、やんなっちゃうな」
またひとりごと。沙羅は手編みのショールを掛けた肩をすくめる。
この頃、私はひとりごとが多くなった気がする。
気をつけないと、七つ上の
沙羅は無意識にこめかみに指先をあてた。
寝室に戻ると、開けっ放しのクローゼットが目に入った。
その中を整理しかけていたときに、林に大声で呼ばれたのだ。
林が深夜に起きるようになってから、沙羅も同じ時刻に目が覚める。
あの子は小さい頃から走るのが好きだった。
近所をジョギングしているだけなのは知っている。
はじめのうち、そっと後をつけていたが、娘の足の速さに
いまでも時折、途中までついていくが、相変わらずいつも見失う。
女の子が真夜中に出歩くのはやめてほしい。
けれども、引きこもってしまった娘の唯一の外出を、沙羅には引き止めることが
単身赴任している夫に相談すれば、間違いなく「やめさせろ」と言うだろう。
このままでいいとは思えないけれど、どうしていいのか迷いながら、黙って気づかない振りをつづけている。
林が帰ってきて、音を忍ばせて玄関を開けるまで、沙羅は眠れなかった。
――もし、あの子に何かあったら、私は生きていられないと思う。
今夜の林は、珍しくよく眠っていたが、いつもと同じ時刻に目覚めてしまった沙羅は、クローゼットの整理をしかけていたのだった。
――片付けものは明日にしましょう。
パタンと半開きの扉を閉めたとき、沙羅は違和感を感じた。
――いまさっき、わたしは何かを手に取っていなかっただろうか。
沙羅は細い首をかしげる
――それをどうしただろう。
あたりには何も見当たらないが、元の場所に戻したのだろうか。
まさか――。
めまいに襲われた沙羅は、こめかみに指先を押しあてた。
明日にしよう。もう寝ないと、体調がおかしくなってしまう。
わたしは、ママという役目は、いつも元気でいなければならないのだから。
――目が覚めたら、クローゼットの整理。
沙羅は枕に頬を埋めた。
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