第71話 集団
俺たちは上陸すると、受け取った地図を見ながら進む。
この島の木々は冬らしく最初から葉はないが、先ほどより密度があり森のようになっている。低木や草も存分にあり、未開の地を探検している気分だ。
「本当に吹雪さん、大丈夫でしょうか?」
俺が心配して言うと松下先輩が、
「出雲でのことを考えれば平気じゃない? それより、私たちを置いて戻ったりしないわよね」
などと、ぞっとしない想像をしている。
山中教官のことをからかうように扱った人だからなぁ。あるかもしれない。
「あそこ、地図に書いてある入り口じゃないですか?」
山の側面、壁のような岩肌に、上の方は円形の弓なりで両側面が真っ直ぐになっているきれいな縦長の穴を見つける。
「隼人、危ない!」
自然にできた洞窟ではなく加工された姿だと、感心していた俺はそのまま足を進めていた。
長三郎の声で振り向こうとすると、横から何か飛んでくる物が目に映る。俺は反射的に避け尻餅をつくと、"キン!”とそれは軽い音を立てた。
通り過ぎていった矢が岩肌に当たった音だったのだが、見ると鉄の
撃ってきた方に急ぎ顔を戻し警戒すると、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてきて、複数の人影が近寄ってくるのが分かった。
五、六、いや、まだいる。こちらよりも多いのか。
そして姿を露にした者たちは、武士であった。
だがもちろん、ここは遺跡なのだからただの武士ではないはずだ。
兜の吹返しといい袖といい大きなもので仰々しく、平たい構造を組み合わせ台形を積み上げたようになっている
「いきなり撃ってくるとはご挨拶な連中だな」
鎧の擦れる音がするだけで、長三郎の挑発に答える様子はない。
「みんな、戦闘準備!」
話ができそうもない状況に、堀田先輩の号令が響く。
そして俺たちが構えると、彼らはまた弓を撃とうと準備をしだした。
「弓を使わせたくない、間合いを詰めよう」
俺が不意打ちでも助かった理由は、周辺の木々が多かったからだ。だから遠くからの狙い撃ちでは無理だと彼らも考えているのだろう。こちらに寄ってきてはいる。だが、堀田先輩の言うように間合いを詰めるまで待ってくれるとは思えない。
「僕の後ろに入るようにして進んで」
そう続けて言った堀田先輩を中心として、雁が並ぶように敵に突っ込んでいく。
ピュン! ピュピュン!
やはり間に合わない。
しかし、堀田先輩が刀を払うように使うと、幅のある光りの線が矢を次々に払い落とした。
俺が紅葉との戦いで出した赤い光りの塊と同じ理屈で、堀田先輩はそれを幅のある筋状の線にして矢を叩き落したのだ。普通の刀でも物理的にはできるかもしれない。けど、あんなに早くたくさん飛ぶものを払えるのは石の力があるからだ。
「よし!」
間合いを詰め、取り付きに成功したと思った俺は声が出た。だが。
カコッン!
弓の打ち手が下がり、別の者が高さ五尺程度ある木の板を前に出しながら割り込んできたためそれに剣が当たる。
「なに!」
普段は相手の矢を防ぐために使うものだが当然強度もそれなりにあるし、剣は盾に斜めに当たったため流される形になった。
「ええい!」
俺は剣を光らせ、共鳴石の力だけで盾持ちを押し返し、距離を取られないよう下がった弓持ちを追撃しようとする。と、
フン!
今度は逆方向から刀を持った者が襲ってくる。
鞘を腰の後につけていて、堀田先輩の打刀と比べると反りがきつい。太刀だ。
やはりこの部分も一昔前の装備なわけだが、火の洞窟の辺りにいた奴らと違い鎧も
「ちょっと長三郎、しっかり守りなさいよ」
狙い撃ちされないよう近くで回復している松下先輩が、ちょこちょこ攻撃を当てられている長三郎のことを怒っている。しかしこの状況は、正直きびしいのではないだろうか。
「穂見月、敵の弓持ちの牽制を」
もちろん当てられればその方がいいとはいえ、堀田先輩が言うように当てられるような場所ではない。
「ダメか、仕方がない。遺跡の中に入るよ」
堀田先輩に急かされ、彼らがまた弓を撃つ前に合わせ下がることにした。
遺跡の中に入っても加工された壁は続き、まるで廊下のような通は緩やかに時計回りに曲がっている。
「よかった、真っ直ぐじゃない。とりあえず奥に進もう」
堀田先輩が言うように、矢から逃れられるためには進むしかない。
「カチャカチャ音がするけど奴ら追いかけてきてるんじゃないの?」
松下先輩の指摘に、みんな少しずつ早足になっていく。
「なあ、罠とかないよな? 霞、どうなんだよ」
「こんな早足で進んでは探しようがないでチュ」
長三郎が言うように罠の心配はあった。だが、あの装備とあの矢なら腕がないとは思えない。遮蔽物がないここでは止まるに止まれないのである。
「堀田先輩、あいつら相模の時と違い、動きもすごく機敏でしたね」
「そうだね隼人。弓で攻撃する者とそれを守る者。そしてやり過ごすと太刀を使う者が前に出てくる。数の問題もあるけど、それを生かす集団戦術をしっかりされたら石があってもさすがに無理だよね」
ほんと、石がなければとっくにやられていただろう。
「でも、あの装備なら、生きている人でないのは確かでしょ」
松下先輩が言っているのは古い型の装備だからではなく、属性装備でなかったからだ。もし彼らが属性装備であったら瘴気に耐えられただけでなく、俺たちはそこの点でも負けていたからだ。戦い慣れした敵に囲まれ押されていたのに助かったのは、装備で被害を受ければ回復できたからである。
「出口みたいでチュ」
「明るいな。外か? 隠れられる場所があればいいけどな」
霞に言われ、長三郎が答える頃、通路から外に出る。
ザッバーン!
中央に浅瀬が広がり回りを岩壁が囲んでいて、波の音はその向こうから聞こえている。
そこは非常に広く、岩壁と浅瀬の間には縦長の岩がところどころ立っていた。
「通路は外とつなぐために作られたみたいだけど、ここは自然を生かしたままの形ってことか」
「そうね鮫吉。それであの岩壁に同じような穴が掘られ並んでいるけど、あれが倉庫ってことのようね」
通路に分岐はなく、地図でここが宝物庫だというのなら松下先輩が言うようにあそこにしかしまう場所はない。
「舞? ちょっと隠れて様子みたいよね」
「そうね……。二手に分かれましょうか。じゃあこっちは、長三郎と穂見月きて」
堀田先輩が様子を見たいと言っているのは、追撃をしてきている武士たちのことではなかった。
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