第69話 若さ
赤名峠を越え、
街道は特に往来する者もなく、人員輸送車はひたすら走り続けた。
それだというのに厳島神社に着く頃には真っ暗であり休むことになる。こんなところに泊まれるもの、普段あることではないだろう。
翌朝、吹雪さんに連れられて社殿の廊下を進む。砂浜の上に作られた、赤い柱に屋根がついたここを歩き、暗くて分からなかったが泊まった場所が敷地内であっても小さな付属物でしかなかったと思い知らされる。
ここまで海水はきていないけど、季節や時間帯でくるのかな? それとは違い、見える大きな鳥居は常に海の中にあるようだけど、どうやって立てたのかな? などと考えていると、だだっ広い拝殿と思われるところにつくのだった。
そしてそこの奥に、俺たちを待っていたと思われる小柄で白髪の巫女が本殿を背にして立っている。
「おはようさん。よく寝られたかい?」
おはようございます、と俺たちも返すとその巫女は頷き話を続けた。
「わたしゃ、
「はい。宝物庫にいる化物を追い払うか倒せという話ですよね?」
代表して答えている堀田先輩が、聞き返してしまうのもわかる。旅をしている理由がどうこうなんて話までしたかなと俺も思っていたからだ。
「うむ、まあそうなんじゃが、吹雪、お前さんちゃんと用件を伝えたのかい?」
「でも、そうゆうことでしょ」
桃さんの問いかけに、いつになく軽く話す吹雪さんを見ていると他にも伝えることがあったようだ。
「いや、ちと違う。お前さんらには、宝物庫の中身を回収してきて欲しい。それは水の石、つまり水の共鳴石じゃ。それさえ回収してしまえば化物はいなくなるだろうからな」
化物が狙ってやっているのか、何かに惹かれてたまたま取り込んだのかは分からないけど、今まで石を持っていたやつらは元々強そうではあった。そう考えると、石を他の場所に動かせばいなくなるだろうという話は分かる。
だとすると次に気になるのは、盗賊など人も狙っているはずなのに警備をしている者が見当たらないことだ。
「主要な遺跡のひとつなのに、見張りとかいないんですね?」
「ここにあるわけではないからな」
俺の話に桃さんはそう言うけど、ここではないとは?
「水の回廊とはこの建物のことではなく、周りの島々のことなのじゃ。宝物庫というのも建物というより、ひとつの島といったところじゃな。お前さんたちには小船に乗り、島々を縫うように進み宝物がある島まで行ってもらう」
「ではそこには、警備している者がいるのですか?」
「いやいや、そちらにもおらん。お前さんらも知っておろう? 遺跡に近寄ったら無事では済まないと」
そういやそうだよな。だから討伐を頼める先がないわけだし。
「お主たち、本当に大丈夫か? 分かってやっておるのか?」
俺の質問に、桃さんは心配になってきたらしい。
「えっとー、属性装備をつけてるので大丈夫ですよ」
すると桃さんは、伏せた顔のおでこに手をやり首を振っている。
なんだろう……思いっきり、否定されているみたいだ。
「それならば、装備を持っていれば誰がやってもよいではないか……」
溢すように話す桃さんの言うとおりだ。
山縣議員の事務所に忍び込んでからあった、違和感の正体がやっと分かった。
そうだよ。処置室から部隊棟に向かう時、穂見月と話しながら自問していたじゃないか。なんで俺たちなんだと。
「確かに属性装備は決め手と言ってもよい。じゃが、お前さんたちのような生徒を動員するのは若さが必要だからじゃ」
若さ?
「瘴気の影響は装備だけでは防ぎきれない。例えば見た目でも分かるように装備には隙間もあるじゃろ」
だから俺は、盗賊との戦いで処置室送りになったんだったよな。
「装備の性能が上がれば瘴気を減少させる効果も高くなるとはいえやはり足りない。それを補うのが、若者が持つ柔軟さじゃ。だからお前さんたちなんじゃ」
正直、俺にはよくわからない。
みんなも、怒るでもなく、聞くでもなく、きょとんとしている。
「まあ、よい。先ほども言ったように」
と桃さんは、本来の話に戻り、
「化物であれ、海に流され誰かに拾われるのであれ、あってはならぬので回収をな。それと、宝物を回収したら先には進まず必ず戻ってくるように」
と続け、相模で勝手に進んだ件も知っているのか釘を刺してきた。
「心配しなくても、行かないわよ」
これに吹雪さんが答えるので、一緒に戦ってくれるのかと思ったらそうではなく小船の船頭をするらしい。これなら言われるまでもなく行けないだろう。
そして俺たちは、一度人員輸送車に戻り装備を整えると船着場に移動するのであった。
「小さいですね」
まさに小船で、七人も乗るような船には思えない。
「それじゃあ、お願いね」
俺が馬鹿にしたからではなく、もともと吹雪さんは水先案内だけをするつもりだったのだろう。そう言われ、俺たち一年の四人で漕ぐことになった。
「わたくしは船から降りませんので。だって、こんな服装じゃ、いくらも瘴気に耐えられませんからね」
出発すると吹雪さんは、そうも続けて言うのであった。
海に浮かぶ大きな鳥居の横を抜け、進む船上で俺は横に並び漕ぐ長三郎に話しかける。
「先に進むなって言われると気になるけど、何がいるんだろうな?」
「何がって、相模のときみたいに化け猫や火の鳥のようなものがいるって前提だな」
すると、景色を見ているだけにしか思えない吹雪さんが答える。
「門のところまで行くなってことでしょ。まあ当然そこには門番がいるでしょうから、それで間違ってもないわよね」
俺たちの想像も
しかし、“門”という言葉は初めて聞く。
「門ですか?」
「あなたたち、その火の鳥と呼んでいるのに会ったんでしょ? おそらくそれが、火の洞窟の門番よ。門っていうのは、本当に城門みたいなものがあるのではなく、どちらかと言えば結界に近いものと聞いているわ」
話しているうちに、小島や浅瀬が広がる場所が見えてきた。
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