第63話 俺は中条
長三郎と俺は歩きっぱなしで疲れていたが、舞鶴と違い小さな町で人員輸送車がとめてある旅籠はすぐに見つかった。
「日が落ちる前に着いてよかったな長三郎」
「ああ、でもちょっと、ボロくないか? この旅籠」
「京と比べるなよ」
長三郎はムスっとして黙り込んでしまった。
「狭くない? ここで四人で寝るの? うちら三人の部屋と同じ広さみたいだけど」
男部屋に来た松下先輩が一言目にいうように確かに狭い。
「申し訳ありませんね~」
声のする廊下の方を見るといつの間にか仲居さんがいて、松下先輩もばつが悪そうにしている。
「いえね。今日は珍しくお客様が多うございまして」
そう続けた仲居さんは、夕飯時ということで御膳をどこへ運べばよいのかと聞きにきたところだったらしい。なので、七人分こちらに運んでほしいとお願いすることにした。
「食べながらでなんだが、聞いてほしい」
食事を始めると、山中教官の話が始まる。
「今回の出来事は今夜中に報告書にまとめ本部に送るとしても、任務の目的である遺跡にはつながらなかった。でだ、新しい情報もなく探索の当てもないし、
「安来ですか?」
俺でも聞いたことはあるけど、遺跡と関係あるのだろうか?
「うむ。亀から手に入った原石があるだろう。それが土属性だったので、これに合う伊丹の槍を作ってはどうかと堀田となってな」
「そうそう。安来なら関に負けないいい鍛冶もいるだろうし」
「でも、堀田先輩も土属性なわけですし、使ってくださいよ」
さすがに先輩を差し置いて使えないと思ったのだろう。長三郎は遠慮している。
「別に譲っているわけじゃなくて、打刀より槍の方が土属性向きの武器だから威力が発揮し易いと思っての話なんだ」
堀田先輩が納得していると知り、長三郎が話を受け入れることで決まった。
ただ前のこともあり、俺には不安があった。
「ところで教官。石を勝手に使ったって、本部から怒られませんかね?」
「確かに普通ならそうだろうが、それも報告書で断っておくので平気だろう。なんたって、あのお方から拝命した特別任務中だ。誰も文句は言わんよ」
なるほど大丈夫そうだと思っていると、槍に使うことになった長三郎は嬉しそうにニヤケている。俺の剣と穂見月の弓には付いてるんだから、たぶんずっと我慢してたんだろうな。
「じゃまするぞ」
障子を開け鴨居を潜る、大きな体が現れた。秋上さんだ。
「同じ宿に泊まっていたんですね?」
「他にこれといった旅籠はないだろう……えっと、お前なんだっけ?」
「中条です」
仲居さんがお客が多いと言っていた理由は分かったけど、名前を覚えてもらえない理由が分からない。
「もうご飯は食べ終わってしまったでチュよ?」
「俺たちももう食ったわ! デブが来たらメシを要求すると思ったら大間違いだぞ!!」
「では何をしにきたでチュか?」
「うむ。お前たちはこれからどうするのかと思ってな」
これに、山中教官がさっきの話をする。
「俺たちは特に情報もないので安来に行こうかと」
「そうか。行くというか、お前は帰るではないかと思うがまあいい。ところでそれなら、俺たちは明日朝一番で淀江に戻るのだが一緒に乗ってくか?」
「いや、それは無理だ。人員輸送車もあるし、積荷が多すぎる」
「まあそうだな。それじゃあ先に戻ることにしよう。今年は雪が少ないから平気だとは思うが気をつけてな」
こうして秋上さんは部屋を出て行く。
いい人なんだけどな。名前さえ覚えてくれれば。
昨日の戦闘の疲れもあり起きるのが遅くなった翌日の朝、もう秋上さんは出発していて会うことはできなかった。
「私たちもちゃっちゃと食べて出発するわよ!」
松下先輩に急かされ準備を終わらせると、人員輸送車に乗り込みまた山中教官の三輪車の後ろについて走り出すのであった。
「ねぇ」
走り出していくらもしないうちに、助手席の松下先輩が振り返る。さっきと違い声に張りがない。
「臭わない?」
「そりゃ、魚運びましたからね」
俺は当然と思い答えるのだが、
「でもさ、昨日旅籠まで移動した時は気にならなかったんだよね」
スンスン! スンスン!
「どうした長三郎? お前なのか?」
「いや、俺じゃないぞ隼人。そうだ! 亀をぐりぐりした堀田先輩の刀じゃないですかね?」
「いやいや。俺はちゃんと相棒の手入れはしているからさ」
あれと、俺は疑問に思う。
「相棒ですか? 前は彼女って言ってませんでしたっけ?」
「うわ! 気持ち悪!」
「…………」
松下先輩の明らかな引きに、堀田先輩は真っ直ぐ前を見たままだ。
「どっちにしても借り物なのにねー」
とどめに同意を求めないで欲しい。
こんな感じでもうすぐ舞鶴なのだが、天候が変わりやすい丹後半島へは行かず少し戻って福知山経由で安来に向うとの話であった。
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