第54話 ぜんざい
翌日。朝食後部屋に集まり、とりあえず今日の話になる。
「鮫吉、向こうには連絡してあるの?」
「してないけど宿に置いておくわけにはいかないし、部長と話がついているんだから平気だろ」
「そうだね。それに穂見月の弓にも石付けてもらわないといけないしね」
松下先輩たちの話を聞いて、穂見月は心配そうな顔になる。
「何よ穂見月。また、不安になってきたわけ?」
「水属性の共鳴石ですから、やっぱり松下先輩の方がいいんじゃないですか?」
「いやだって私、弓使えないし」
「この弓、並寸で七尺三寸あるんですよね。いいものなのにどちらも使いこなせないなんて」
「慣れるまではしょうがないよ。それに矢の性能もあるから弓だけの話じゃないしさ。何より回復の私が一層楽になるからいいじゃん」
「でも回復ばかりじゃなー」
ここで長三郎が水を差す。
「分かってないわね。負けないことも大事なのよ」
松下先輩はしかめっ面になり反論する。
「それじゃあ行ってくるね」
何かを感じ取った堀田先輩が逃げるように部屋を出て行くと、やることがないので自由行動になった。
「おい隼人、お前も行かないか?」
長三郎に誘われるが断る。霞にごねられ、ぜんざいを食べに行くらしい。
「はぁ」
俺はまた障子を少し開け、天帝と会う前のように通りを眺める。
依頼された大渕議員だけでなく、おそらく山縣議員も遺跡のことを調べている。そして天帝もだ。
それぞれが同じ理由かは分からないが、わけがあるはずだ。金? 武力? 議会での主導権? どれも俺には関係ない。
ただ、土の遺跡を探すことは命令だ。
そしてそれに従うことが俺たちの存在を保障し、脅されたりしないで済む安全な立場につながるものだ。
でも……。
どうせ聞くなら、年が開ける前に聞いた方がいいだろう。
トントン
「誰かいる?」
俺は女部屋を訪ねた。
「いるよ」
穂見月だ。
「また河川敷でも行かない?」
何となく穂見月も残っているとは思っていた。
「松下先輩は?」
「二人とぜんざいを食べに行ったよ」
河川敷に着くとたわいもない話から始めるのだが、いつまでもそう言うわけにもいかない。
「最近は、お父さんとの連絡は取っているの?」
「ううん、全然取ってないよ」
「どこにいるのかは聞いてる?」
「お母さんが死んでからは仕事の事はあんまり話さなくなったし、みんなが来てくれた夏にも訪ねてこなかったから分からないな」
これでは盛文さんがどこまで知っているか確かめようがない。
横目で見ると穂見月の目が微かに赤く腫れていると分かるので、これではいじめているみたいだ。
だがもうひとつ聞かなくては。
「昨日、忍び込んで事実を知って、学校や警察、それに応援にきた生徒への恨みの気持ちはないの?」
穂見月はどうして聞くの? という表情を一瞬したがすぐに答える。
「みんな任務だからしょうがないよ。それに私たちと同じ立場だった生徒たちは苦しんで病んでしまったと言ってたじゃない。たぶん、殺した生徒たちも辛かったのよ」
「穂見月、俺、土の遺跡探しは命令だからやるよ」
「うん」
首を傾ける穂見月。俺が意地悪になって質問したのは、この先の話のためだ。
「だけどもうひとつ理由があるんだ。それはまだ、知らなければならない秘密があると思うからなんだよ」
「秘密?」
「まず、山縣議員の事務所で見た報告書だけど、あれだとお爺さんの話の説明がつかないところがあるんだよ」
「それはお爺さんが、その……想像した部分もあるんじゃないのかな?」
「そうなのかな? それに昨日岩根さん、一体何を回収したんだろう?」
「そうだね。あんなに詳しかったのに」
「そして穂見月がお父さんに会えない理由だよ」
「えっ?」
「まだ、何か探しているんじゃないのかな? 俺たちが見つけることができるぐらいの話なら、もう見つけていたんじゃないかと思うんだよね」
穂見月は少し戸惑い答える。
「そうかもね。遺跡探しは私も任務だからやるよ。でも、お母さんは生き返らない。だからお父さんには早苗のところに帰ってほしい。私の願いはそれだけだよ隼人」
俺は謎を解くことが唯一の慰めだと思っていたのだが、傷つけただけだったのだろうか?
「みんな帰ってきてるかな? 明日以降の話もあるかもしれないし、そろそろ旅籠に戻ろうよ」
「そうだね穂見月。お昼も食べてないし」
そう答えると、穂見月は微笑んだ。
俺と穂見月は戻ってきた堀田先輩とお昼にする。ちなみに、松下先輩と長三郎、そして霞は、餅を食べ過ぎてお昼はいらないと部屋から出てこなかった。
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