第51話 真打登場①

 恰幅の良い男が上座の方へ向って進むと、続いて少し背が低くおっとりした顔の青年が続いて入ってくる。彼も長く色艶のよい髪を後ろで留めている。お付だろうか?

 しかし、恰幅の良い男は上座に座らず椅子を過ぎ、斜め後のところに立つ。そして後ろを歩いていた青年が、席に座るのだ。

「では、私から」

 上座寄りに座っていた晴親さんが立つと二人を紹介する。

「このお方は、百六代天帝・きょうねい様であらせられる」

「そして後に立つ者は、警察統合局神託部部長・柳沢やなぎさわ元重もとしげである」

 どうしていいか分からない。

 驚くと言うより、嘘にしか感じないからだ。

 黒い羽織を脱ぎ、柳沢部長という男にそれを渡す青年の藍色の小袖は確かに庶民というより豪商のおぼちゃまのような光沢がある。最近は車の運転のため筒型の袴も履く時代、変装に失敗していると言われればそんな感じもする。

 だがそんなことより、ここで一番信頼できるのは浅井教官が柳沢部長を見たときの対応だ。

 本物か?

 そういえば、この二人も晴親さんも髪型が似ている。宮中の行事でこうぶりをかぶるために伸ばしているとしたら分からなくもない。


 とりあえず、頭を下げたらいいのかな? 座ったままじゃ失礼? でも立っていいの? ここはやっぱ土下座!

「そのままでよいので聞いてくれ」

 天帝が喋った!

 本物か分からないけど合わせるしかないよな。そのままでいいって言ってるし。

「年が明ければ行事で忙しいので急で悪かったが呼ばせてもらった」

 見た目、俺たちと大して歳が変わらないようなのに随分落ち着いて喋っている。

「頼みがあるのだ」

 頼み?

「では、私からお話させていただきます」

 すぐに交代だ。引き継いだ柳沢部長は立ったままで話をする。

「まず、諸君らを呼んだのは神託部の者にしか話せない内容であり、もっとも適任であると思われたからだ。そしてこの場所を選んだ理由は秘密裏な話だからである。諸君らを宮中に呼べば目立つし、天帝陛下に統合局へ来ていただくわけには参らん」

 何が適任だというのだろう?

「そして依頼したいこととは、土の遺跡を探すこと。捜査をせよと言うことだ」

 遺跡……。

 晴親さんが会食にと誘いに来たとき、ついでのように話したことは口が滑ったわけでも、俺をはめようとしたわけでもなかったんだ。

 相模の遺跡のことを『四つあると言われる主要な遺跡のひとつ』と言っていた。

『ある遺跡』ではなく『あると言われる』だ。

 つまり、土の遺跡がそれなんだ。

 しかしおかしい。天帝は神と特別な関係、唯一の関係のはずだ。いわばそれは、誰もが知っている契約のようなものだ。

 だから直轄機関の警察統合局神託部があり、越境できる連邦調査隊が編成できるのだ。祭祀のための移動や護衛、遺跡の調査・維持管理などもそうして行われてきたはずである。

 だが、探せと?

 再び天帝が口を開く。

「お主らが不思議に思うのも無理はない。だがな、余もすべてを教えられている訳ではないのだ」

 また、柳沢部長が話を引き継ぐ。

「任務に当たってすべてを話すしかあるまい。諸君らが前に行った相模の遺跡は『火の洞窟』と言われ他に、安芸あきに『水の回廊』、伊賀に『風の塔』と言われる遺跡がある。そして不明なのが『土の遺跡』だ」

 主要な遺跡には、四つに分けられた属性と同じ、火・水・風・土と名前がついている。重要そうなのは何となくそこから分かるし、俺たちが適任だというのはこの前の任務のせいだろうと、そこも想像できる。

 しかし、探す必要があるのだろうか?

 天帝に質問をすることはさすがにできない。疑問のまま話は進むのであった。

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