第44話 くのいち岩根⑥

「しょうがないわね」

 私がそう言うと同時に、堀田、松下、中条が岩陰から飛び出し河童へと向って行く。そして弓の仁科が後ろで援護の構えだ。

 もちろん私は、今回も見物させてもらう。


 堀田は構えた刀を自身の右の河童に向けたかと思うと、今度は顔を左に振り反対側の河童も威圧して二匹を相手にしている。

 押さえ込んではいるが、あれでは倒せない。

 輪から出た根津も、右手に忍刀、左手に苦無と二匹を相手にしている。

 だが、中条が一匹しか相手にしていないというか、松下が杖なのにまた別の一匹の相手をしているというべきか……。

「隼人、早く倒しなさいよ!」

「松下先輩、剣は当たってるんですが、こいつら回復術使えるみたいですよ?」

「あー、水属性だし回復得意なのかも。穂見月、援護できる?」

「えっと、味方に当たりそうで……」

 引っかくような攻撃をする河童と近接戦になってしまっていることもあるが、河童の体は大きくないし機敏である。彼女の腕では難しいか。

 水の流れる音と、刃物と河童の甲羅が当たる音が岩場に響く。

「味方に当たったら回復するから撃っちゃいなよ」

 松下が恐ろしいことを言っているが、一匹減らし膠着状態を変えられれば勝てるという考えなのだろう。

 そして仁科は撃つのだ。

「ハイ!」

 もう少し迷うと思ったのだが……。

 寸詰めの弓から放たれた安物の矢は、中条が相手にしていた河童に命中する。

 その河童は矢を受け、取り乱し、中条の剣をもろに受ける。

 瀕死の河童は血だらけで真っ赤に染まり、中条の顔も青く染まる。

 そりゃ、回復担当の松下に向っては撃てないからな。

 河童たちは瀕死の河童を見て明らかに動揺している。

 中条は、松下が相手をしていた河童に攻撃対象を変え、松下は下がり堀田と根津の装備の回復に入る。

 それを見ていた仁科は背負っている経由装置を更に青く光らせる。

 属性力を展開して回復援護するつもりか?

 次の瞬間!

 キューキューキュキュ!!

 複数の河童が瀕死の河童に回復術を使う。

「あっ!」

 仁科は今更気がついたようだが、河童も水属性だ。しかも、もともと回復術は得意。松下の回復もうまくいったとはいえ、相手の回復量の方が上をいってしまい属性展開が裏目に出たわけだ。

 振り出しか? そうはならなかった。

 河童たちは回復が成功すると一斉に逃げ始める。

 そもそも、戦う気もなかったようだ。勝ち目がないところを立て直すことができたのだから賢い選択だろう。

「終わりましたね」

「そうね、逃げられたわね」

 中条に返事をする松下の横では、仁科がブツブツ言っている。

「……すいません……すいません……」

「まあまあ、いい経験じゃない。勝ったようなもんだし」

「そうそう、舞の言う通りだよ」

 堀田は続けて私に言う。

「だけど河童逃げちゃって、盗んだ品、回収できませんでしたね」

 おかしい……。

 盗んだものがないだけでなく、河童は好戦的ではなかった。それは農民の話でもそうだった。

 しかし、貨物車の運転手たちは河童を避けて道を逸れたと言うし、逸れた車からは河童の足跡が見つかった。他に盗んだ者がいたとは考えられない。


 今いる河童のたまり場のような場所から、奥へ下がりながら広がっている洞窟をどうしたものかと眺める。

 何か動いたか? 岩じゃないな。

「どうかしました、岩根さん?」

 堀田が私に声をかけながら、その目線を追いかける。

「あれ、動いてますよね」

 そして堀田は、

「みんな新手のようだ。戦う準備を」

 人型の大きなそれは、丸い頭でずんぐりむっくりした体つきだ。海坊主か? ここの水は淡水のようだが。


「何か知らないけど、やる気みたいだから相手するしかないようね。穂見月、いつまでもイジイジしない。行くわよ」

「はい! 松下先輩」

「相手は一体のようだ。僕は左から行くから隼人は中央、霞は右から」

「了解!」「わかったぞ!」

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