第37話 謎の声③
バッサ、、、バッサ、、、
風を激しく生み出す音がするとそれが強く降り注ぐので、思わず右腕で顔を覆ってしまう。すぐに何事かと慌てて手をずらすと、目の前には大きな鳥がいた。そして大きいだけならお約束なのだが、羽は後方になるほど広がり一本一本が光り火の粉を舞い上げている。この瞬間に、光る穴から出てきたのか、それとも天井から降りてきたのか、どちらにしてもこんなに大きく輝く鳥が、沸くように出てきた仕掛けが理解できない。
別格を感じさせるそれは堂々と構え“いつでもかかってこい”と言いたげだ。
「これが、封じるべき何かだっていうのか?」
長三郎は依頼主が分からない話を引き受けたつもりはないだろうが、これではやるしかないと思っているようだ。
俺も遺跡の影響を受けたものとは散々戦ってきたのだから、これも戦うのだろうと思って気合を入れる。
しかし、堀田先輩は悩んでいる。
「どうだろう、おかしくないかな? わざわざ封じる対象が指定された途端、目の前に現われるなんてあるのかな」
「それにこれ、神様なの? 名付けるなら火の鳥ってところじゃないかな」
松下先輩の話に、俺は名付けている場合じゃないと言いたい。
「あとさ、暑い中歩いてきたし、結構回数戦ってて体力も属性力も余裕があるとは言えないんだよね。たぶん、こいつ強いだろうから戦いたくないんだけど」
重要なその話を先にしてはどうかと思う。
でも本当のところは、俺も戦いたくなかったことを思い出してしまうのでそんな話はやめて欲しい。そしてそれは、情けなくも見逃してくれないかという無駄な期待を生み出してしまっていた。
「
!?
霞が急に言うので振り返ると、黒い頭巾に黒い鎖帷子を着ている全身真っ黒な出で立ちの、体つきのよい者が五人並んでいた。いつからそこにいたのかさっぱり分からない彼らも、まるで空気から沸いて出てきたのかのようだ。
そんな頭巾をかぶっていて顔が分からない様子なのに霞は名前で呼んでいて、しかも兄様と呼ぶのだから訓練の時に話していた三人の兄のうちの最後の一人がいるのだろう。
霞はその五人の頭と思われる人物に近寄り話しているのでその者が兄のようなのだが、すぐに堀田先輩のところに戻ってきたかと思うと、この場を離れるようにと伝えてくるのだ。
「ここは兄様たちがやるからと、帰るように言われた。堀田先輩、問題ないな?」
「うん、正直助かるよ」
入り口付近で腕を組み真っ直ぐ立つ五人を残し、その空間を出ると霞の後について道を戻ることにした。
「霞、お兄さんたち、あの火の鳥を倒すってことだよね?」
「隼人、心配いらん。兄様は強い」
「うん。ところで、訓練の時お兄さんのことだけじゃなくて、風の流れで洞窟でも道が分かるって言ってなかった?」
「チュ!」
鳴き声と共に跳ねるように動く霞は、そこには触れられたくなかったようだ。
「チュ? って、分からないの?」
「道は、分かる。だが通れるか通れないかは別だ」
「つまり、段差があるかとかは分からないってことだよね~」
松下先輩はここぞとばかりにこう言うが、途中で他の道を聞かなかったのだから弱点を知っていたのだろう。
「それで火の鳥からは逃れたけど、帰り道はどうするかな?」
堀田先輩がいまさら言うので心配になったが、霞によるとお兄さんが俺たちには分からない印をつけておいてくれたらしく問題はないという。
「最後に、みんなへひとつ言っておくでチュ。今回の事は誰にも言ってはいけないでチュ」
つまりお兄さんが帰してくれるのは霞のこともあるが、秘密にすることが条件になっているのだ。俺たちも命令違反をしているし、話すのが都合が悪いのは一緒なので了解するのであった。
そのあと、霞の案内のまま進むと本当に迷わず外に出ることができる。体の力が抜け、装備が急に重く感じる。時間の感覚もなくなり、車に向って歩き出す。
「あれ? 河田はどうした」
ついてきていたはずの河田がいないので俺が聞くと、みんな顔を見合わせてしまう。
「隼人、友達が心配なのは分かるけど戻るのは無理だし、意思で逃げた可能性もある。そうすると見つからないだろう」
堀田先輩が言うように、探すことは今の俺たちには不可能である。
帰還の途につくしかなかった。
学校に戻ると、ボロボロの俺たちを何事かと見る生徒もいた。
しかし気にする余裕などなく、装備一式を保管庫に預け堀田先輩が報告書を上げれば後は処分がくるのを待つだけである。もちろん、霞のお兄さんたちのことは書いていない。どの道、装備の調達や使用の手続きは違反であったし、現地で必要以上に進んだことも違反であるのだからもう関係ない。
だがその後、何日経ってもその話に触れる指導もなければ処罰もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます