第36話 謎の声②

「まさかあれが経由装置なのか?」

 俺は驚きを声に出す。

「そうよ。誰でも弓を持てばいいってものじゃないの。弓本体だけじゃなく、あの腰の経由装置から周囲に一気に展開するための属性力を送れる能力と、それ以上に維持するための保有量がなければならないからね」

 話す松下先輩は同属性で支援を受ける形になり、回復量が増えたため余裕が出てくる。磐石になった俺たちは、火ネズミの掃討に成功した。


 戦いが終わると、荒い息づかいをしながらもなんとか耐えていた河田の手当てを始める。

「河田、大丈夫か? 他の仲間はいないのか?」

 俺は質問し改めて周りを見るが、倒れている盗賊一味が動く気配は無い。

「大丈夫かって? 大丈夫ではないが死にそうもないな。すまない……礼を言うよ」

 河田は調子を落とす。

「それで仲間のことだが、押され下がりながらここまで戦ってきたからな。誰も逃げられなかったよ。俺は新人だったから後ろの方にと言われてて最後まで残っただけだ」

 そして一息つくと、調子が戻ってくる。

「しかしこの前と違って、お前ら装備がいいみたいだな。いや、腕も上がったか」

 河田が言うように装備の力は大きい。とはいえ、ついこのあいだ勝利したばかりの連中が、太刀打ちできなかった敵を倒して見せたのだから認めたのだろう。

 河田も助かり、下りたことは無駄にならなかった。


「だけど穂見月、すごいよ!」

「ありがとう隼人。自分で言うのもなんだけど、思った以上だったかな。松下先輩との連携がうまくいってよかった」

 穂見月も嬉しそうにしているし、みんなもうなずき満足そうだ。

 ……しかし辺りを見渡せば、切り立った岩ばかりで登れそうな場所が無い。

「河田、この先の道分かるか?」

「いや、隼人。俺たちも道に迷っていたから分からない。だが、この岩の切り立った場所は通っていないから他にも道はあるはずだ」

「それじゃあ、進むしかないようだね。河田君も歩けそうかな?」

 堀田先輩が尋ねる。

「歩いて見せますよ」

 河田はそう返し、俺たちと一緒に帰り道を探しながら進むことになった。


 すぐに、あの声が聞こえてくる。

 もはや、声の主に近づいているのか、出口に近づいているのか分からない状況だが進むしかない。ただ、やもおえない状況とはいえ道は下り、どんどん奥の方へ行ってしまっているようで、強くはなかったが昆虫などが変異してしまったと思われるものに出くわし戦いになることもあった。

 そして今度は、障害物になりそうな岩などもあまりなく、空間全体が円状に広がり天井も丸屋根を見上げたようになっている場所に突き当たる。ネコがいたところよりもふた回り以上大きいと思われるここで気になるのは、正面奥の地面が完全に抜け落ちており、下から橙色の光りがボワッと放たれているところだ。ここからだと見えないが、まさか下に溶岩でもあるのだろうか? 引き返し他の道を探さなければならないのに、神秘的だと見入ってしまう。


「何も無くて開放感あるなぁ。あの光り、暑いとはいえさすがにマグマじゃないよね?」

「そう思うけど、随分光ってるよね?」

 俺のとぼけた話に穂見月が真面目に答えていると、その光りは次第に強くなると共に後光のごとく上へ向い放射状に広がっていく。

「マジかよ」

 みんなも驚いているだろう。

「おお、これは爆発するぞ!」

 こんな時でも霞はたぶん冗談を言っているが、長三郎は変化に気がつき指摘する。

「おい、あれ見ろよ。中に、人のような形をした光もあるぞ」

 爆発しないのはよかったとして、放射状の光りの中央に青っぽく光る別の光りが見えて驚きが続く。

「…………願いを届けるべく……歪みを正し……神々の怒りを封じてください……」

 この声の主なのか? 青白い光りが喋っているのか?

 確かに、人が足を抱えて横向きになったいるようにも見えなくもないが、人は光ったり浮いたりしないし、口のようなものも見えない。

 ならどうやって、語りかけているというのか。

「敵意はないようだけど、これも遺跡の力なのかな。わからないや」

 堀田先輩にも驚きは見えたが、落ち着きを取り戻し状況を考えているようだ。

「神様を封じろとか言ってないか?」

 長三郎がそう言うと穂見月は、

「違うんじゃないかな。『神の怒りを封じろ』だから、神そのものじゃなくて怒りを封じるんじゃない?」

「じゃあ願いってなんだよ?」

「うーん、『歪みを正し』だから、何かを正すんじゃないのかな?」

「もう、何も分からないじゃないか」

 長三郎は焦っているようだ。

「長三郎、穂見月だって分からないよ」

 焦っているのは俺も一緒であったが止めに入る。

 この、僅かなやり取りの間に包んでいた神々しい光は弱くなっていくと、中の青い光りもゆらゆらと消えてしまう。そして空間は、下の方から間接的に岩肌を照らすだけの元の明るさに戻った。


 興奮が収まり、過ぎ去った景色が幻だったかのように辺りが沈黙したあとだった。

 バッサ、、、バッサ、、、

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