第33話 再び相模へ②

 運転している堀田先輩と助手席の松下先輩の会話が、人員輸送車の荷台に乗っている俺たちのところまで聞こえてくる。

「鮫吉、どうしたの? そんなに急いで出なくても」

「隼人の剣、見ただろ?」

「うん。随分立派なの用意したのね。石付きなんて」

「そこなんだよね。共鳴石を用意できたら、それを付けられる経由装置がある剣も必要になって……」

「なに? それで剣を変なところから借りてきたとか?」

「いや、変なところではなく、共鳴石も剣も用意するために浅井あざい教官に協力してもらたんだけど」

「けど?」

「最初に共鳴石の加工をできる人を紹介してもらったら、今度は剣が必要になったから装備の管理記録を一部書き換えて、貸し出しできるようにもしてもらったんだ」

「浅井教官って、輸送・修理学科を担当するぐらいだから加工できる業者も知っているだろうし、保管庫の記録を操作できるのも分かるけどさ、共鳴石の無断所持と使用、それと記録の改ざんなんてばれたらただじゃすまないわよ」

 俺たちに聞かせるつもりは無いのだろうけど、大きくなっていく声に松下先輩の気持ちが高ぶっていってると分かる。

「だから剣が見つかったら出発を止められて回収されちゃうだろ。それでも作戦は中止にならないだろうから、無理にでも持ち出す必要があると急いだんだよ。作戦が終わってしまえば回収されても構わないし、目的が達成できればうやむやにできるかもしれないと思って」

「うやむやになんかしてくれる? それに処分がきたら相当重いはずよ」

「そうだけど、舞だって分かってるでしょ? だから穂見月の弓も用意したんだろうし」

「でも……」

「火属性の共鳴石を手に入れたのはたまたまだけど、必要ならばやるしかないよ。とにかく処分なんて帰ってきてからの話。先生もそう思ってくれたから、無理があると分かっても性能試験という名目で改造して貸し出してくれたんだ。もし後でこの事を聞かれても、舞は知らないって言ってくれればいいからさ」

 二人の会話で、装備が用意された背景が分かってしまった。

 つまりそれは、そこまでしたくなるほど危険な任務だという事であり、とぼけてはいたが俺は内心ビビッていたのである。


 車をこの前と同じところに置くと、装備をつけて洞窟まで徒歩で向う。途中、見える範囲に何もいなかったわけではないが、それらは襲ってくることはなかった。

 遺跡の入り口まで行くと、前は遠くから見ていただけなので分からなかったが、盗賊が間から出てきた柱のように並ぶ縦長の石だけが大きいのではなく、入り口そのものも大きな石でガッシリ組まれているとわかる。そんな時が経っても不動ではないかと思える石で出来た構造物は、洞窟へ入ろうとする者を拒んでいるのか導いているのか表情が感じられなかった。


 選択の余地がない俺たちが洞窟に入ると、上半分が球形なっている空間が玄関であるかのように出迎える。そしてそこから進めば伸びる道はごつごつした岩の塊で作られていて、幅も天井までの高さもバラバラであった。しかし足元は、管理している人が通ることもあるせいか平らな部分も多く、訓練施設のように狭いというほどの場所もなかった。


 キィーキィー!!

 洞窟といえば付き物の、コウモリが複数鳴いているようだ。

「コウモリ? だよね」

 俺が確認するように言うとそれは当たっていたのだが、迫ってくるコウモリが徐々に大きくなっていく。何なんだこのデカさは、カラスじゃあるまいし。

「堀田先輩、まだ来ますよ。しかも、いっぱい」

 ビックリしていっぱいと言ってしまったが、四、五匹のようだ。

「うん、僕たちが目標みたいだね。これはやるしかないかな」

 そう言って堀田先輩は刀に手をかけるので、俺たちも戦うべくそれぞれの武器を構える。

 キーッキーッキー!!

 甲高い鳴き声が頭に響いてイライラするなか剣を振ると、もともとの飛び方なのか、かわすためにそうしているのかは分からないが、とにかく軌道が読めずに振り回す剣は当たりそうもない。

「くっそー」

 ときどきコウモリの足や歯が当たるが、大した傷にはなっていないようだ。とはいえ、このままでは進めないので倒すしかない。

 もう一回、気合を入れて払うように剣を振るが、やはりかする程度だ。

 これではダメだ……。

 手ごたえのなさを嘆く。だがそのまま振り抜くと、コウモリの羽がつけ根辺りで切れて落ちていく。

「これは……」

 持っていた剣を見ると、属性力が刃の部分だけでなく経由装置にはめられた共鳴石も赤く光らせているようだ。

「ひょっとして、この力なのか? これなら完全に当てなくても倒せるのか?」

 発生した力がただ押し切るだけではなく、剣を包むような力だと感じた俺は、いけそうな気が湧いてくるのだから単純な男である。

 そして俺が次を倒す頃には、堀田先輩や霞の活躍もあり敵を一掃していた。

「これならいける。共鳴石の力がこんなにあるなんて想像以上だ」

「それが、石付きの力なんだね」

 興奮している俺に、後衛に回っている松下先輩も始めて見たのか一緒になって目を輝かせている。

 しかしここで、喜んでいる俺と松下先輩を冷ますかのように霞が言ってきた。

「まあ、そこについている石はあたいの物だけどな」

「そうなの? 共鳴石を用意したの霞なの?」

 松下先輩が不思議そうに聞く。

「うむ、これはあの時のうなぎ石だ」

「うなぎ石? って、文化祭の時のあれ?」

「そうだ。あれだ」

「へぇー」

 うなぎ石と聞いて松下先輩は、本当に冷めてしまったようだ。

「普通コウモリは人を襲ったりしないんだけどね。やっぱり遺跡の影響かな」

 そんな事を気にしない堀田先輩の説明が終わると、俺たちは前進を再開するのであった。

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