第34話 番犬
ごつごつした通路は相変わらず、広くなったり狭くなったりを繰り返している。
「ここを抜けたら祭壇だよ」
堀田先輩の話に結構近いんだなと思いながら、何も考えずに通路から開けた場所に出る。
え? 目が合う。
こちらを捕らえている黒い瞳孔は、垂直方向に絞られていく。
虎か……。
『シャーーー!!』
??
虎はガオーではないのか?
などと思っていると、待ったなしに虎はこちらへ突進してくる。
「隼人!」
叫んだ長三郎が虎に向って槍を投げると、突進すべく進路上にその槍が刺ささるので虎は横に飛び跳ね、こちらを向いたまままた走ろうかという姿勢に構えた。
『シャーー!』
「あれネコじゃないの?」
鳴き声と、お尻を上げて構える姿に松下先輩は言うのだが、確かにそんな感じがする。遺跡の影響というのは何でもデカくするのだろうか。
「ネコでも虎でも倒すしかなさそうだよ。そうしないと祭壇に近づけないし」
堀田先輩が言うように、目標である祭壇は正面段々になっている石敷きの中央にあるので倒す他ない。
それにしても、話している間もネコは俺の方ばかり見て構えている。ネコなのにまるで番犬のような仕事ぶりだ。
「行くぜ!」
俺がその態度を買って出るかのように真っ直ぐ向かって行くと、化け猫も突っ込んできた。
俺は間を合わせ上段から剣を振り下ろす。しかし化け猫はそれを右にかわし、左手を上げ軽く招くように振ってくる。すると伸びた爪が鎧右側の袖に当たり、くっきり三本の線が重なっている鉄板に入った。
「ちょっ!!」
その深さから、新しい鎧でなかったら右腕がもげているのではないかと考えていると、先読みして備えていた松下先輩の回復が飛んできて鎧の傷は消えてゆく。
束の間、その様子を見て気が抜けていたようだ。
一度離れた化け猫の旋回は素早く、俺が構え直す前にこちらへ飛びかかろうとしている。
が、止った瞬間を逃さなかった霞が苦無を投げ、それが右目に刺さる。
痛さにもがく化け猫は、周りに注意を配ることはもうない。
堀田先輩が踏み込み切りかかると、刀は深手を負わせる。
しかし、大きさゆえか
もはや戦えない化け猫の動きを長三郎が回収した槍で止めると、俺は光る剣に力を込め振り下ろし、その首をはねた。
「終わったようだね。みんなよくやったよ。中々止めを刺してあげられないから、どしようかと思ったけどね」
堀田先輩は戦いの中、苦しむネコが可哀そうだと思ったのだろう。一方俺は、袖の傷を見たときに車中で抱いていたことを思い出してしまい、そんな余裕はなかった。
「これが、指示された祭壇でチュか?」
「そうみたいだね」
物足りなさそうな霞に、松下先輩が答える。
「意外と簡単に任務が終わりそうでチュ」
「油断大敵でしょ? 穂見月もそう思うよね」
呼ばれると申し訳なさそうに、松下先輩の影から穂見月が出てくる。
「すいません」
「何、謝ってんのよ。ちゃんと回復補助してたでしょ」
「でも、なくても、この程度なら松下先輩なら平気だったでしょうし」
「まあね。相手が弱かったってより、うちらの準備が念入りだったからね。気合入れ過ぎたかな。しかしこの祭壇、特に何もないけど、どこを見てこいって話なのよ」
松下先輩が言うように、この部屋のような空間に変哲もなければ祭壇の周りを見ても何もない。
「そうだね。何もないならそれでいいんじゃないかな。さっさとこんなところ帰ろう!」
準備に苦労した堀田先輩からしたら、この程度の任務では報われなかったのかも知れない。でも、そう言うのだ。
どちらにしても、そのおかげで俺が助かったことは間違いなかった。
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