第31話 特火陣地②

「俺もそれ、使った方がいいかな?」

 もちろんそんな気はない。だけど悔し紛れに、貸してくれるか試しに言ってみただけだ。

「ふっふっふ。これは、風属性の私が使いこなすことによって発揮されるのだよ。そして訓練を重ねた今、洞窟のような場所なら風の流れで道まで分かるのじゃ」

 期待はしていなかったが、やはり貸してはくれないようだ。


 霞がおかしな語尾で話すのは毎度のこととして、すごい能力をさらりと言っているのでこの前の事を思い出す。

「そういえばさ、援軍要請に行って無線が使えたことと風属性は関係ないよね? 授業では、街道筋でさえ電波が拾える場所を探すのに苦労するって習ったけど」

 あの後、寮の部屋で長三郎と無線が通じてよかったと話していたぐらい、あそこが使える場所なのかを判断することは難しい。

 だから長三郎も、霞が使えたことが気になっていたようで重ねて聞く。

「端末を担ぎたくはないが、どこでも使えれば役に立っていいんだけどな。それで連絡を取れたのが偶然とは思えないんだけど、どうなんだよ?」

 霞は俺たち二人を前に、無い胸を張り自慢げに説明する。

「あたりまえでチュ。偶然じゃなくて実力だ。しかしそれだけではなく、堀田先輩も目星を付けて車を止めているし、街道なら茶屋などは電波が取れるところに建てられているのだ」


 霞のこと、堀田先輩や松下先輩は装備の話もあるので学校側から聞いているかも知れないけど、前々から何者かと思っているのは長三郎も穂見月も同感だろうと考え、俺は直接聞いてみることにした。

「霞は戦いも強いけど、どこか特別な塾で習っていたのかな?」

「いや、ここに来る前は普通のニンニン塾だ」

 ニンニン塾!? 俺は呆れてしまうが、冗談との境目が分からないまま話の続きがある。

「しかし強いのは、兄様と一緒に訓練をしていたからだ」

「お兄さんと訓練?」

「うむ。うちは代々、傭兵稼業のようなことをやっているんだ。あたいには三人の兄様がいて、一番上の昭政あきまさ兄様は年が離れていて家をすでに継いでいる。そしてそのもとで、年の近い三男の泰政やすまさ兄様が訓練をしていたので、その時に一緒について回っていたのだ。だからあたいもそこそこ戦えるようになった」

「へぇー。それじゃあ、霞も稼業を継ぐの?」

「いや、むしろ向いてないと言われて追い出されてここに来たのだ」

「そんなに強いのに?」

「あたいは強くないし、仕事は戦うことばかりじゃない」

 俺から見れば十分強いのだが、世の中ではそうでもないのかも知れない。まあ向いていない理由が、他のところにあるんじゃないかと思ったりもしないわけではないのだが。


「ねえねえ、準備よかったら訓練始めようよ」

 松下先輩が、いつまでも話をしている俺たちを止めない堀田先輩を見かねて割って入ってくる。

 こうして訓練が始まれば、霞は宣言通り装備を使いこなし、石を積み上げ作られた部屋や通路などの狭い場所でも動きはいい。それに比べると俺は、置いてある的を剣で叩こうとすると剣先が天井に当たったりして思うように振れない。長三郎はそれどころか槍が回せないので、刃が向いているのと違う方向に的があると突くことが全くできない状態になる。

「つっかえて回せないし、前に進もうとすると引っかかるところもあるしで、戦えないだろうこれじゃあ」

 長三郎は怒っているが、堀田先輩によれば実際の遺跡ではさすがにここまで狭い通路は見たことがないそうで、あくまでも練習用に厳しく作られているようだ。

 それでもここを通れる霞は、ああは言っても中々の教えを受けていたに違いない。


 そして移動すら思うようにできない、イライラが募るだけの訓練がやっと終わる。作戦準備室に戻って思い返すと、この訓練は面白くないのであまりやりたくない。

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