第25話 光る石

 統合局から派遣されてきた応援を残し先に車を出す。俺は怪我をしているということで、いつもは松下先輩が座る助手席に乗せてもらえる。とはいえ、人員輸送車の揺れは穏やかでなく傷に響く。

「隼人、痛むかい?」

 堀田先輩が運転しながら気を遣ってくれるけど、痛くないわけが無い。

「ええ、まあ大丈夫です。それより盗賊が引いてくれるとは思いませんでした。『後は応援に任せればいい』って言ったのは、そのための芝居ですか?」

「うーん、一応そうなんだけど、盗賊もそんなに早く応援が来ない事は知っていたと思うな」

「それじゃあなんで、勝っているのに盗賊は下がったんですか?」

「それは舞が途中で言ったように、街道沿いのどこかに車を隠していたからそれが地元の警察などに見つかって、押さえられてしまうことを恐れていたんだと思う。僕たちなんか敵じゃないとしても、帰るためには車がいるからね」

 俺は自分が相手にされていないと思う悔しさに、助かってよかったという事を忘れそうだ。


 堀田先輩は、話そうか迷ったのか若干の間を置いてから、遺跡に関することを話してくれる。

「もう気がついていると思うけど、遺跡と言われるところには特別な力がある。だけど遺跡という場所に力があるのか、力を発する何かが置いてあるところなのかは分かっていない。それと、遺跡と言っても見た目はそれぞれで、さっきのように洞窟のような場所ばかりではないらしいんだ」

「特別な力ですか?」

「うん、それは『遺跡の力』と呼ばれている。今まで実戦をやるたびに敵が強くなったのは、遺跡に近い敵になっていってたからなんだけど、ここから遺跡の影響と、敵の強さの関係は分かると思う」

 これは体験上、そうであった。

「遺跡の力が動物などを強くしたとすると、影響を受ける彼らも神の祝福を授かったと考えられるらしいんだ。つまり、属性力を持っているということだね」

 初めて聞く話だが、確かに人だけしか持っていないということも説明された覚えはない。

「それで今回のように盗賊が放置できない理由は、盗みを生業としているからというよりも狙っている物に問題があってね、彼らの標的は、一見、石のように見えるが特定の条件下で宝石のように光る共鳴石と言われている石なんだ」

「光る石?」

「でも、宝石みたいな見た目になるからと取り合っているわけじゃないよ。それが属性力を増幅させるからなんだ。だからもし、盗賊が持ち出したものが街なかで影響を及ぼしたら何が起こるか分からない」

「では盗賊たちは、盗んでどうするんですか?」

「売って金に変えるか、自分たちで使うかかな。さっきの連中は、属性力を使う武器や防具を持っていたから使うかもね。だけどまず、共鳴石を使えるように加工しないといけないからすぐには無理だと思う。もし作れれば、経由装置にその石を装着することで力が増幅できる。でも、経由装置も石の付けられるものじゃないといけないから、そこまで用意できればの話かな」

「経由装置って、この大きな鍔のことですよね。ここに付ければ威力が上がるって事ですか?」

「そう、だからそれを装備している盗賊は、ますます手ごわいってことになる。そもそも僕たちが訓練をしている理由は、遺跡を調べられる力をつけるためなんだけど、盗賊たちが現れるようになってから、彼らの手に渡らないようにするもの仕事になってしまったんだよね。だから今回遭遇した連中が、簡単ではないとはいえ共鳴石の材料を見つけた可能性があったので、厳しい戦いでも見逃すわけにはいかなかたんだよ」

「そうでしたか」

「隼人には、怪我をさせてしまって申し訳なかったけどね」

「いえ、俺はそのために学校に入ったんで、気にしてないです。それよりも対抗できるように、俺も共鳴石が欲しいんですけど」

「それは難しいかな。ゴロゴロあるもんじゃないから統合局にも予備なんてないと思うよ。それに武器は属性に関係なく力を伝えてくれるけど、共鳴石は属性の制限を受けるとかあるからね。もし、自分で合うものを見つけられれば経由装置の改良ぐらいは装備担当者で出来る人がいるかもしれないけど、頼む機会がないから分からないな」

 そりゃ簡単に手に入ればすでに付いているか……。


 それから少したち学校に近づくと、堀田先輩がさらりと言ってくる。

「すぐに保健室に行ってね。処置室で縫ってくれるよたぶん」

 うーん、早く治しては欲しいけど、縫うなんて言われると大事のようで怖い。

 そのあと車は、珍しく正門から入るのであった。

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