第24話 盗賊


「石の間から、ゾロゾロ屍が湧いてきてるみたいだぞ」

 霞はそう言うが、堀田先輩は焦るような口調で否定する。

「違う、あれは生きている人だ。盗賊だ。中から出てきたようだがまずいな。仕方ない、あいつらを追いかけるぞ」

 しかし、松下先輩から思いも寄らない言葉を聞く。

「鮫吉、さすがにやばいんじゃないの?」

「そうだな……。霞、無線の使い方はわかるよな? 車に戻って応援を呼んできてくれ」

「わかったぞ」

 堀田先輩から車の鍵を預かった霞は、街道にとめてある車まで一人で向った。


 一方、残った俺たちは、洞窟から離れていく彼らに追いつこうと進路を選び移動を始める。

「何なんですか? あいつら」

 長三郎も松下先輩の言葉が気になるようだ。

「あいつらは遺跡にある物を盗みに来た盗賊なの。ここから見る限り四人しかいないようだけど、車があるはずだからそこに仲間を待機させているかもしれないし、遺跡の中で戦える腕があるならこちらが五人といっても厳しいでしょうね」

 少しずつ距離が縮まっており戦闘になりそうだ。そして厳しいと言われれば、怖くないわけが無い。だがそれよりも、盗賊は普通の生きている人であり、今までのように倒せばいいという話ではないはずだ。しかし、相手が殺すこともいとわないと考えているのなら、俺たちはどうしたらいいのだろうか。

 堀田先輩が、その答えにもなる作戦の説明を始める。

「戦い方についてだけど、まず盗賊も遺跡で戦うために僕ら同様、属性を力に変えられる装備を使用しているはずだ」

 今までの相手は装備をつけていなかったので忘れていたが、要するに模擬戦と同じ要領だということが俺にも理解できる。

「盗賊たちの装備の質も腕前も分からないけど、こちらより劣る可能性はほぼないから。だから中の人を傷つけてしまうのではないか、なんて恐れる必要は残念だけど無いかな。とにかく人数差を生かして手堅くいこう」

 正直、厳しい状況なのに戦わなければならないのかとも思うのだが、ここまでの経緯を考えると遺跡の力は特別だ。盗まれたくない物が、穂見月の家族を悩ませるような物が、そこにあるならやってみる価値はあるかもしれない。俺は戦うことを決心できた。

 そして、相手をする必要がないとばかりに無視していた盗賊たちも、距離が詰まったことで逃げるのをやめ反転し、武器を構えるのである。


「いくぞ!」

 堀田先輩の掛け声で戦闘が始まった。

 盗賊は四人で回復らしき者がいないので、攻撃できる四人に回復役の穂見月がいる分こちらが編成では有利である。しかし、事前に聞いていたように盗賊は手ごわく、受け流すのに失敗が多い長三郎なんかは回復が無ければ危うい状態だ。

昌真まさただ! 後ろの回復を狙え」

 盗賊の頭が押している状況を決定的なものにしようと、穂見月を狙うよう部下の一人に命令をしている。俺は穂見月を守るために後ろに下がる。

「ヤアァァァ、ジャマだー」

「やらせるか!」

 襲い掛かる敵を俺は止める。

 命令されていた感じもそうだったが、俺でも対応できるところをみると、こいつはまだ若手のようだ。

 そしてもう一度剣を交えたとき、頭に布を巻きつけているだけで顔を隠すこともしない相手が、別れてから半年も経っていないやつだと気づく。

「お前、河田かわだじゃないか」

「中条テメー、気がつかねぇでやってたのか?」

「なんで盗賊なんて、やってるんだ」

「お前だってなんで戦ってる? 属性値を毎年のように計られても何も考えないのか? それが重視されるという噂が立ってもおかしいと思わないのか?」

 塾で一緒だった河田が言っているのは恐らく、その結果が良ければ受験や就職で有利だという噂があった測定のことだ。地域で毎年行われる健康診断では、確かに属性値の項目があった。しかし、あまり差が出るようなものではなかったので、俺は気にしていなかった。

「盗賊に入ってから、お頭が言うように属性を伸ばすことができた。そして、武器や防具に属性力を注いで使えば大きな力が得られた。だからそれを隠している世界がおかしいと確信したんだ!」

 警察官に憧れ、自分がやっていることが正しいと思う俺には河田の気持ちは理解できない。

「それでも盗賊をやる理由にはならないだろ!」

「うるさい! 盗賊がいいとか悪いとかそんなの関係ないんだよ」

 信仰を疑う変なやつだと言われているのは俺も知っていたが、こんな形で現れるとは思ってもみなかった。


 こうして俺と河田が言い争っている間も戦いは続いていたのだが、穂見月の回復が間に合わず防具の属性力が維持できていない。このままでは押し切られてしまう。

 その時堀田先輩が、

「よし、ここまでだ。下がるぞ。後は応援に任せればいい」

と言うので、俺たちは下がりながら戦う。

 俺は押している盗賊が見逃してくれるとは思わなかったが、彼らも下がり離脱していく。

 気が抜けて空を仰ぐと、左腕に急に痛みが走る。駆け寄ってくる穂見月が、物理的な手当ての準備をするので自分の左腕を見ると、肩と肘の間に五センチほどの斬られた傷があることに気づく。これは属性力が切れたからというより、装備が初心者用で弱いのが原因なのだろう。

 それでも回復役として穂見月は、責任を感じずにはいられないようだ。

 応急処置をしてもらうと、戦いに疲れ放心状態のまま車のとめてある街道まで戻る。そこでは霞と到着した統合局の応援がいたが、盗賊に追いつける見込みがないという判断でこのまま学校へ戻るようにという指示が出たのであった。

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