第26話 夕暮れ

「教官への報告が終わったら僕は作戦準備室に戻るから、治療が済んだら部屋に寄ってね」

 堀田先輩はそう言うと、保健室に近い方がいいだろうと本校舎入り口の車寄せにつけてくれる。そして降りようとした時、穂見月が付き添いとして来てくれることになり、片付けは松下先輩たちにお願いすることになった。


「こっちの方なんて滅多に来ないからワクワクするな」

 本校舎の玄関を入ると、普段は大教室のある西側にしか行かないので、東側にある保健室へ向うあいだに思わず口にしてしまった。

「そんな……。行かないに越したことはないでしょ?」

「そりゃ穂見月は専攻でこっちに来るし、処置室も入ったことあるかもしれないけど」

「ええ。でも、授業で見学したことがあるぐらい。専攻のときも授業は二階の教室でやるから、一階の方へはあまり来ないかな」

 保健室に着くと、先生は処置室で縫うと言うのだ。予定通りだが、まあそれは痛いのである。

 処置はすぐに終わり包帯を綺麗に巻いてもらうと、待っていてくれた穂見月と作戦準備室がある部隊棟へ行くことにした。


 本校舎を出ると、夕暮れ時で人通りがない部隊棟までの道を話しながらゆっくり進む。

「穂見月も大変だっただろうけど、これで戦っている相手が遺跡の影響で変異したものだと分かったね」

「そうだね。でも、私たちの目的が遺跡の調査で、そのためには盗賊とも戦わなければならないってことだよね」

「うん。そうなるとやっぱり力が欲しいから、剣に付けられる共鳴石っていうのが手に入らないかななんて思っちゃうんだけど」

「私は戦いたくないな……」

「俺だって戦いたいってわけじゃないけど、負けることもできないし……」

 それは間違っていないと思うのだが、自分で言っていて疑問に思う。

「でもなんで、力が必要なら俺たちみたいなヒヨッ子に行かせるんだろう」

「それは……、そうだね?」

 そんなことを聞いたって、穂見月が答えられるわけがない。

 だから想像するしかない。

 人材不足とか? しかし内戦が終わり二十年、そんなことはないか……。

 ……他に思い当たらないな。


 そんな風に頭の中を巡らせていると、穂見月のお爺さんの話がよみがってくる。あの時、穂見月のお母さんは何も知らないから亡くなり、生徒が知らないことは例外ではないと言っていた。だったら堀田先輩は知っているのだろうか? 遺跡からの力と任務の説明はしてくれたけど、それだけなら派遣されるのが俺たちじゃなくてもいいはずだ。もし、これらにつながりがあり、堀田先輩すら知らない理由があるならば、遺跡の調査という目的すらも信じていいのか分からなくなってしまう。

 正義を求める気持ちも、穂見月の役に立ちたいという気持ちも変わらない。でもちょっとだけ、河田の考え方が分かってしまったのかも知れないと思った。

 そして部隊棟に着くと、その日は簡単な報告だけで済むのであった。

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