第18話 出会い②
気持ちよく揺られていたのに車が止るので目が覚める。外は暗く景色は見えないが、もう一人乗せると言っていた場所に着いたのは間違いないようだ。途中、堀田さんの仮眠のために休憩したとはいえ、時計の針はすでに十八時を差している。再び熟睡してしまったことは置いといて、これだけの時間走れば松本まではきているだろう。
「どうぞ、乗って」
堀田さんの声がすると、俺の乗っている席の反対側の扉が開く。
「失礼します」
女の子の声がしたかと思うと、開いた扉から荷物の端が見える。
続いておしりから乗ってくる姿に、
この暗闇のどこに、その光源があるというのか?
その不思議な空間は、座った彼女がこちらに向いて挨拶をすることによって解けたように思えた。
「よろしく、おねがいします」
しかしその後も、心奪われたままであった。
車が出発すると、美人なのか可愛いのは分からないままなのに虜にされた俺は、寝ている間によだれを垂らしていないか心配になり上着を手で擦って確認する。
「あの、」
「ああごめん、俺は中条隼人っていいます」
「始めまして、仁科穂見月と申します」
挨拶を返すのを忘れていたと焦るが、緊張して顔を見て話せない。
「あの、制服ちゃんとなってますよ。シワとかないですし」
俺は何の事か一瞬分からなかったが、制服を擦っていたのを整えるためにやっていたものと勘違いされたらしい。もちろん、よだれ対策などとは言えないので話題を切り替えた。
「そういえば、これでもう学校に行くみたいだね」
「そうですね」
「同じ組になれればいいね」
勢い口にしてしまい恥ずかしいのに返事がない。困った俺は、暗く何も見えない窓へ視線を移すのだった。
はっ! またウトウトしてしまった。
横目で仁科さんを確認すると起きている。
「大月で給油に寄るから、そこで朝ごはんでも食べようよ」
車内の鏡で俺が起きたのに気がついたのか、堀田さんがまたご飯をおごってくれるようだ。
「私は家からおにぎりを持ってきてしまったので結構です」
仁科さんは用意がいい。俺は違って、日程表などにご飯について書かれていなかったものだから何の準備もしてこなかった。だからまたと思ったのは、つまり前の休憩のときにもご馳走になっていたからである。
「そっか。じゃあ中条君の分、簡単に食べられそうなものを買ってくるよ」
空がまだ薄暗い中、給油所に着く。
「他に、必要なものがあれば買ってくるけど?」
給油が終わると車を端に置かせてもらい、堀田さんは一声かけてから朝食を買いに行った。
二人は他に頼む物もなく、車の中で待っている。
「中条君、おにぎりここで食べてもいいかな?」
「うん、もちろんだよ」
仁科さんがおにぎりを食べていると空が赤くなり日が昇ってくる。それと同時に彼女の顔がハッキリ見えてくる。どうやら虜にされたことは闇夜に惑わされたわけでなく、少なくとも俺の世界では間違いでなかったようだ。
熱くなってきた……。
俺が熱くなってきたのは、堀田さんが気を利かせて暖房をつけたまま買い物に行ったからではなく、彼女の横にいる自覚が芽生えたからである。
「おにぎりのにおい気になるでしょ? ちょっと窓を開けましょうか」
彼女はそう言うと少しだけ窓を開ける。合わせて僕も、こちらの窓を少し開ける。すると車内にこもっていたおにぎりのにおいが、朝のさわやかな風に運ばれ出て行く。
「ちょっと暑かったから丁度よかったよ。あのさ、今日も天気よくなりそうだね」
何を話したらいいか分からないので、自分でも何んでこんな事を言っているのか分からない。
「別に、無理に話さなくてもいいよ。それに中条君、越後から来たんだよね?」
「うん、そうだよ」
「越後の人とは仲良くする気ないから」
無理に話題を搾り出していると見破られただけでなく、どうしてこんなことを言われるかのと思ったけれど、確かに今までのやり取りでも彼女の口調は冷めていた。
「おまたせー。あれ暑かった?」
「いえ、私がおにぎり食べて車内ににおいがこもったので、空気の入れ替えをしていただけです」
「そっか、それじゃあ行こうか。ほい、どうぞ」
堀田さんは俺に、小麦を焼いて作ったフワフワの皮に肉や野菜が包んである斬新な食べ物を買ってきてくれる。
うん、おいしい。
それから飲み物は、仁科さんの分まで買ってきてくれたのだった。
それを俺たちに渡し終えると車を出し、自身は斬新なそれを頬張りながら器用に運転している。
食べ終わった俺は、仁科さんにあんなことを言われたものだから何を話していいか分からないどころか、話しかけていいのかすら分からないので黙ってしまう。
「ご飯食べて眠くなったんなら、寝てていいよ」
堀田さんは俺たちが喋らないのは眠いからだと思ったようだけど、ここに来るまでに俺は十分寝てしまったし、さっきの感じからすると俺が横にいては彼女は安心して寝ることができないだろう。
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