第17話 出会い①

 迎えの約束をした日になると、予定通りの十八時に松下先輩が車で訪ねて来る。

 まだ、父さんは仕事から帰ってきていなかったので、母さんと仕事から帰ったところだった姉さんとで見送りをしてくれた。

「あらビックリ、こんな美人さんがくるなんて」

「そんなー、よく言われます」

 安易に褒める母さんと、当然のごとく振舞う松下先輩に悟りの境地を感じる。

「それじゃあ、よろしくお願いします。それとこれ、よろしかったら皆さんで食べてください」

 母さんはお土産を渡すが、それはこの前父さんが職場で大量に貰ってきて干しておいたスルメイカであった。普通の若者が好んで食べるものとは思えないが、しょうがないので俺の荷物と共に車の後部座席に積んで出発することにした。


「すいません、先輩」

「何が?」

「スルメイカで」

「ああ、別に乾いてるからいいんじゃない。それに学校の車だから」

 自分の車ではないので、臭いが残っても気にしないのかも知れない。

「ところでさ、さっきお母さんの横にいたのお姉さんでしょ?」

「はい、俺と四つ離れててもう働いているんです」

「そっか、私は妹ばかり二人で、男兄弟が欲しかったんだよな。そのせいか分かんないけど、サバサバしてて男っぽいとか言われるんだよね」

 松下先輩を見ていると、きついところもあるし兄貴分に感じるところは確かにある。

「それは妹さんを連れて歩いているとかで、そういう風に見えるだけじゃないですかね? 俺の姉さんもサバサバというか、きびきびというかしてるんで」

 松下先輩は、少し間を置く。

「まあ、お母さんが言ってくれたように、美人だからどっちでもいいんだけどね」

「はぁ」

 男っぽいというのとは違うと思う俺の考えが伝わったかは分からないまま、ため息で相槌を打っていた。

 ただ今は、実技訓練のときと違って穏やかな表情で運転する横顔に、優しいお姉さんを感じるのであった。


 車は、堀田先輩が入学式に合わせて迎えに来てくれたときと同じ道を走っている。あの時は、堀田先輩が生徒だなんて知らなかったんだよな……。


             ――――――

 迎えの車が来たので外に出る。

 入学式が始まる時間から逆算して夜の九時になったらしいのだが、春とはいえまだ寒い。夕食を済ませていたので少し眠たくなっていたが、装甲車とは言わないまでも緑に塗られたごっつい四輪駆動と思われる車が現れたので目が覚める。

「こんばんは、中条隼人君だね。僕は堀田っていいます。荷物はそれだけ?」

「はい、よろしくおねがいします」

 俺が荷物を持って乗ると、堀田さんは見送りに出ていた父さんと母さんに一礼をしてから運転席に乗り込み発車させた。

 後部座席に乗せられるが、その後ろにも荷物を積む空間があり車内は広い。座席そのものは、運転席のある一列目と自分の座っている二列目しかないので、それでも六人ぐらいしか乗れなさそうである。

「堀田さん、他の新入生の家も回ってから学校に行くと資料に書いてありましたが、まだ僕だけですか?」

「うん、中条君は最初のお客さん。とは言っても、今年はこちら方面にはあまりいないようで、信濃でもう一人乗せたら学校へ戻るよ」

 次で終わりと聞いて驚いたが、それよりも普段車に乗せてもらうことなどないので前が見たいと思う。

「信濃まででいいので、助手席に座ってもいいですか?」

「ああ、悪い。助手席には彼女しか乗せない主義なんだよ」

 格好がいい発言なのかは悩みどころだが、とりあえず前に乗せてくれないことは分かった。

 それではと、これから向う学校について聞いてみることにする。

「統合局の学校って、どんなところなんですか?」

「想像していた警察学校とは違う部分もあるだろうけど、細かい事は追い追いって事で。まあ性質上っていうのかな、変った学校だから説明が難しくって。大体、この車のお客さんがあまりいないのも生徒数が少ないからなんだけど、これで間に合っちゃうんだから変でしょ」

 俺は堀田さんの話す内容が具体的ではないので、運転だけ頼まれただけで学校の事を詳しく知らない人だなと思い、話すことをやめてぼーっとする。そして車窓から、家路につく労働者がそこそこ乗った二両編成の鉄道がコトコト走っているのが見えるなと思っていたら、そのまま戻ってきた眠気に襲われたことに気がつきもしないで寝てしまうのであった。

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