第12話 準備

 模擬戦週と言われている週に入り、朝から作戦準備室へ行くことになる。模擬戦はいきなりやるのではなく、最初の五日間は準備期間で戦うのは最後の二日間に勝ち抜き方式で行うということだ。なのでこれから、練習が繰り返される五日間が始まるのである。


 まずは準備室で、堀田先輩から説明があった。

「勝ち負けで成績が評価されたりしないから、そこは心配しなくていいよ」

 ぬるそうだな。

「実戦の装備をそのまま使うから属性力があれば中の人は大丈夫ということで、本番さながらの非常にきつい戦いが毎年繰り広げられているんだ」

 それは恐らく痛いよな。この前の長三郎みたいになるのか?

 話が進めば、何だかんだ言ってもやっぱり堀田先輩も勝ちたいらしく、俺の武器を格の高いものに交換しようと言い始める。

「そろそろ使えると思うし、祭りだからこそ試せるいい機会だ」

 そういうことならばと当然、

「俺も、ひとつ上の槍が使いたいんですがどうでしょうか?」

と、長三郎も有利と思われる格の高い武器に変えたいと言う。

「う~ん、隊員二人が一度に新しい装備にするのは挑戦しすぎかな。うまく使えないぐらいなら、格の低い武器の方が効果が出るときもあるし」

「そうですか、分かりました。それじゃあ俺はこのままで」

 意外と言っては悪いが、長三郎は堀田先輩の説明に納得するとそのままでいいと言う。

「堀田先輩、実際に使えるか試したいのですが」

「それじゃあこれを」

 俺は準備室から出て装備保管庫に行き、堀田先輩から預かった申請書を出して許可をもらうと受け取る。堀田先輩の打刀と同じぐらいの刀身を持つ剣を渡され、自分に使いこなせるかと剣をしばらく見つめてしまう。

 屋内訓練場に持ち出し、実際に素振りをしてみると持っている剣は赤く光ってはいるが、ふわふわ今にも切れそうな電球の玉みたいだ。ようするに俺の力が足りないということで、このままだと剣の威力は十分発揮されないだろう。


 それでも試合に備え鍛え、二日、三日と過ぎていった。

 今日も訓練が終わり、準備室に戻ると水分を補給しながら一息つく。

「そろそろ本番に向けての作戦を考えようか」

 堀田先輩が話し始める。

「それで今年の主題なんだけどさ」

「「「「主題?」」」」

 俺たち一年の四人は、いまさら感があることを続けて言われ声を揃える。

「うん、毎年内容が変わるんだよ。使う訓練場や作戦の目的は、模擬戦週になってから発表されるんだけど、そのことについて話すね」

 俺は訓練前に何故言わないのかと思う。

「今回使うのは砂地訓練場で、目的は宝探しだ」

 宝探し?

「宝探しと言ったのは、訓練場内に隠されている、たぶん埋まっていると思うんだけど、その代物を見つけ出して、自分たちの陣地に持って帰ってきた数で勝敗が決まるからなんだ」

 もしやと思い、質問する。

「堀田先輩。ってことはですよ、相手と戦う必要はないんですか?」

「そういうことだね。とにかくその物を見つけ出して持ち帰ればいいんだから、戦いは避けた方が効率はいいかな。でも見逃してくれないかもしれないし、相手が持って帰る途中のを奪ってもいいんだよ」

「そういうことですか……」

 その通りなんだろうけど、正面で向かい合い戦う場面を訓練では想像していたので、なんだか騙された気がしてしょうがない。

「それで代物を探す方法はというと、情報がないと探しようがないので隠されているその物には属性に共感する仕掛けが僅かだけどしてあるらしいんだ。探査能力が高いと言われているのは風属性だけど、部隊員の構成で差が出ないようそれぞれの属性に設定されたものが用意されるから、そこは考えなくていいという話だよ」

 これを聞いてガッカリなのが風属性の霞である。

「折角活躍できると思ったのに、つまらないでチュー」

 頭を重そうに横に倒すと、口をもごもごさせながら何かつぶやいている。たけど、主題の説明はここまでのようだ。

「そうそう。それと、今年はついてるんだよ」

 堀田先輩が付け加える。

 何がついているかと言うと、一回戦は一、二年の部隊と二、三年の部隊が当たるよう本来は組むらしいのだが、部隊数の関係で俺たちのところは一、二年部隊対決になっているからだそうで。

 これで方向性は分かったけど探し物の見本があるわけでもなく、有意義な作戦を考えられないまま準備期間が過ぎて行くのであった。

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