第11話 夢
うん? 花壇、ここは中庭だよな。
俺、どうしてこんなところにいるんだっけ?
「長三郎!」
!
「兄さん、どうしてこんなところへ?」
「どうしてって、長三郎のことを見に来たに決まっているじゃないか」
「俺なら大丈夫だよ。一人でもやっていける」
「本当か? その割りに体は痛そうだが」
えっ? 言われると確かに体が痛い。
「鹿に蹴られたのか? 随分やられたな」
蹴られてからもう一週間。あざは残っていたが、痛みはとっくに引いていたはずなのに。
……………………
「アッハッハッハッ」
四、五人の笑い声が外から聞こえてくる。
あいつらまた、“うち”まで来たのか。そんなに暇なら自分たちでやればいいのに。
「いや、参ったな」
地面を擦るような足音が遠ざかっていくと、兄さんが家に入ってくる。それは『参ったな』と言っていた、声の主だ。
「兄さん、またあんなバカな連中と話していたのですか」
「長三郎、バカだなんて言うものじゃないし、僕の学友ですよ」
「でもあいつら、家柄がいいだけで何も出来ないくせに威張りちらして、挙句困った時だけお願いにくるんだろ」
「だけどお願いされるってことは、僕の実力を認めているんじゃないのかな」
「優秀な兄さんは利用されているだけだよ! 付き合わない方がいいんだよ」
「どうだろう。相手が何を考えているかは分からないとしても、長三郎の言う通り何も出来ないからと家柄にしがみつき人を利用しようとしているなら、悲しいのは僕じゃなく相手の方じゃないのかな? 彼らが利用するために付き合っているだけなのか、友と呼べる者になっていくのかは分からない。だがそれを、こちらで決めてしまうことを急ぐ必要はない」
「兄さん……」
……………………
「長三郎、部隊のみんなが呼んでるぞ」
家? 学校? ああ、体育館の方で呼んでいるのか。
「でも兄さん、堀田先輩と松下先輩は一年のおもり役だし、隼人だって警察官になりたいってだけで剣術すらやったことがなくて、この部隊で一緒にやっても結果なんて出せないに決まってるんだよ」
「それではひとつ聞くけど、長三郎は何故あの時、僕の学友を非難したんだい?」
「だから威張ったり、利用したりしたから……」
「では、頭を下げお願いしてきたり、対価としてお金を支払えば、付き合うべき友になれたのかい?」
「それは……」
「部隊のみんなは、お前のことをどう見ているのかな?」
「……」
「能力や出身で見ているのかい? 頼った頼られたとそのたびに回数を数えたり、事柄の重さを量ってみたりしているのかい?」
「そんなことはないよ、兄さん」
「そうだろう。なら、そのまま素直な気持ちでいいのではないか? そうでないと、本当の仲間が近くにいても会うことができなくなってしまう」
「そうだね兄さん、俺……間違っていたよ……」
******
今日から期末試験だ。
考えてみれば、短冊に書くべき願いは試験の結果であったが、今となっては手遅れである。そんな思いで本校舎へ向って歩るく俺の横には、笑みを浮かべる気持ち悪い長三郎がいた。
「何、笑ってるんだよ。余裕じゃないか」
「ああ、夢を思い出していたんだよ」
「夢?」
「短冊に書いた願いが少し届いたのかなって」
おかしいな? 俺と同じ願い事を書いたはずだし、かなったら学校にもういないんじゃ。
何にしても、願いが届くのであれば益々試験の事を書いておくべきであった。
そんな後悔のもと、一週間に及ぶ試験が始まってしまったので、結果は考えないことにするのであった。
その一週間が過ぎ、これで一学期は終わりだ。しかしすぐに模擬戦があり、その後も実技などで遅れた分の勉強を取り戻すため、授業の予定が組まれていた。
年間予定表に書かれていた、夏季休暇というのは本当にあるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます