私に私の気持ちがわからないのに、何故、貴女にわかるのですか?



 日向子は芽以に向かって言い出した。


「まあ、逸人でいいんじゃない?

 頭もいいし、格好いいし。

 真面目だし……


 なに睨んでんのよ」


「私、睨んでますか?」

と芽以は自分でも不思議に思い、訊き直した。


「いや……、睨んでるっていうか、強張ってるけど?」

と日向子は言ってくる。


 そうなのか。


 自分ではよくわからないんだが、と思いながら、頰に手をやると、日向子は、ははん、と笑い、


「さては、あんた、自分の彼氏が一番いいと思ってるタイプね。

 悪いけど、私、逸人には興味ないから」

と言ってきた。


 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。


 私の彼氏……


 とは誰だ? と思っている間に、


「わかってたわよ」

と言いながら、日向子は立ち上がる。


「あんたが本気で圭太を好きなら、きっと、圭太は家を捨てて、あんたのところに行っていた。


 あんたの気持ちが圭太を向いてないから、圭太はそこまで押してはいかなかったのよ。


 ……捨ててやりたいわ、私も圭太を。


 でも、好きなのよ」


 こちらを見ずに、真摯にそう言う日向子を見上げ、芽以は思っていた。


 可愛い人だな、と。


 こちらを見下ろし、ふっと笑った日向子は、

「帰るわ」

と言う。


 日向子は代金を払おうとしたが、逸人は断った。


「じゃあ、今度、お祝い持ってくるわ」

と言い、日向子はスマートに引き下がる。


 そして、こちらを振り返ると、

「でもまあ、此処に来て、収穫はあったわ。

 貴女が今でも圭太を好きなわけじゃないとわかっただけで」

と言ってくる。


 いや、私にも私の気持ちがわからないのに、どうして、貴女にわかるのですか?


 そう思いながらも、芽以は、特には突っ込まずに日向子を見送った。


 店内に戻ると、逸人が腰に手をやり、こちらを見ていた。


「女王様が元気になって帰っていったが、いいのか」

と訊いてくる。


「いけませんか?」

と芽以が言うと、逸人は微妙な顔でこちらを見ていた。





「女王様が元気になって帰っていったが、いいのか」


 そう逸人が言うと、芽以は、

「いけませんか?」

とほんとうに不思議そうな顔で、こちらを見、訊き返してくる。


 こいつの気持ちがわからない、と逸人は思っていた。


 お前、圭太が好きだったんじゃないのか?


 日向子に同情して、もう圭太はどうでもよくなったのか?


 では、形ばかりの夫である俺など、もっと簡単に捨てられるのだろうか。


 チラと横に居る静を見る。


 静なんか、いい男だし、いいヤツだし。


 俺が女だったら、絶対、惚れると思う。


 こいつを芽以のそばに置いておくと、芽以はこいつを好きになってしまうに違いない。


「静」

と呼びかけると、静が、なんだ? とこちらを向く。


「絶交してくれ」


「今、お前の頭は何処まで行っている……」


 すぐに発想が飛ぶ自分の性分を知る静に、

「帰ってこい」

と言われてしまった。




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