「大人の判断」


僕は何もしない──

──する理由が無いから



何故なら、この世界は残酷だから。

努力は踏み躙られ、嘲笑される。頑張れば頑張るだけ、その努力を裏から這い寄るハイエナ達が食い千切っていく。

誠実さは欺瞞の大好物で、愛は謀りのスイーツにされる。

友情は蜥蜴の尻尾と同義で、正義はルールの虚を突かれるだけで崩れてしまう。


だから僕は何もしない。


手を抜いて、力を抜いて、適当に、不真面目に生きる方が生きやすい。



道に迷う二人の外国人がいた。

英語はわかる。女性の方が男性にキレかかっていて、男性はタジタジながらも、携帯端末を開いて必死に調べていた。

近くの団子屋に行く予定だったらしい。

僕はその場所を知っている。駅の反対側だ。二人は降り口を間違えたせいで混乱しているのだろう、と容易に想像がついた。

そこまで知っていて、僕は「関わるのが面倒だから」と傍観していた。


そんなところに、一人の少女が躊躇い無く突っ込んでいく。日本語で「大丈夫ですか?何かお困りですか?」と訊ねる。

外国人は日本語に堪能では無いようで、カタコトと英語混じりに喋っている。

少女は英語がわからないようだった。何を言われてるかさっぱり、といった感じだ。

暫く三人は、日本語と英語で応酬していた。


なんと無駄だろうか。なんと無意味であろうか。

言葉もわからないのに、話しかけたりするからだ。

その外国人を助けて何になるのか。いいや、なんの得も無い。

互いに時間を浪費し、苛立ちを募らせるだけだ。


「ダンゴ!」

「団子!?団子ね!こっち!」


通じた。

通じない道理はないだろう。

いずれは通じるだろう。

だけど、そんなことにかける時間は無駄で勿体無い。


そのハズだ。


なのに。


どうして。


こんなに苦しいのか。


僕は何もしない。

何もできない。


間違ってなんかいない。

これが一番「楽」な生き方なんだ。



「でも、一番「楽しい」生き方じゃないでしょ?」


振り向いたけど、そこには誰もいなかった。

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