「赫塗れ」

私は、いつしか人殺しをやめられなくなっていた。

いつからかは覚えてない。

ただ、心臓に突き立てた刃から吹き出す赫いモノを浴びることがあんまりにも心震えて、愛おしくて、幸せだったから。

布一つ纏わずに相手に抱きついて、ぎゅうと抱き締める。相手の鼓動と暖かさを感じる。なんだかとても安心する。

それから、逆手に持った匕首を胸に突き立てた。

どくどくと脈打つ振動が、直に腕に伝わって、弱まって、止まって。

あんなに暖かった身体は、冷たくなっていく。

生温くなった血を肌に塗りたくる。てらてらと燦めく赤が宝石のように綺麗で、私はひとしきり眺めた。ほう、と溜息を吐く。

それから、無性に悲しくなって、寂しくなって、虚しくなった。


それがなんでかは知らない。けれど、いつだって満たされるのは一瞬で、割れたグラスから幸福は流れて、喉が渇いてしまう。

だから、まだ欲しくて次の獲物を探してしまう。


あぁ。


また壊(アイ)せる人を探さなきゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る