「理想は四文字」
「
「趣味は読書。座右の銘は、"
言い切った後、一瞬だけしんと静まった。
やがて
どうやら良く解らないが、僕は"やらかした"みたいだった。
僕の両親は読書家で、僕の名前もそれぞれが好きな作家から一文字ずつ取ってつけられたらしい。そんな両親は、僕に玩具代わりに大量の本を与え、読み聞かせた。そんな幼少期を過ごしたものだから、僕も自然と字を読むのが好きになり、小学校では暇さえあれば図書室に行って本を読んでいた。小学校の図書室では足りず、近くの図書館に行っていた程だ。
学校を出て、友人とも遊ばずに図書館に行き、そこで宿題を終わらせてから本を読み漁る。そして、夕飯の時間になってからようやく帰る。そんな生活をしていた。
それでも小学校ではいくらかの友人がおり、「ハカセ」などと呼ばれて慕われていた。普段読むのは小説ばかりで、図鑑や学術書を読んでいたわけではないので、物事に詳しい訳では無かったが。幸いにも勉学は国語以外そこそこに出来たので、ある程度ハカセらしいことをしていれば遊ぶことができた。国語が苦手なのは、漢字は読めるが書くことが出来なかったり、普段読み慕っているせいで"文法"を覚える必要が無かったりしたからだが、深くは割愛する。
さて、中学に進学するにあたって、僕は「本が多い場所が良い」と考え、父母に
そして、その選択は失敗であった。居坂中学校は入和の生徒が殆ど居らず、隣町の
当然同じ教室に知り合いなど居るわけがなく、そのことに気づかなかった僕は完全に場違いな空気の中、冒頭の自己紹介へと至るのである。結果は火を見るより明らかで、完全に浮いてしまった。
席に座った僕は、小学校とは違う中学校の厳しさをひしひしと味わうことになる。
結局その日は誰にも話し掛けて貰うこともなく、下校の時刻となった。僕は胸にもやを抱えつつも、気晴らしに本でも読もうと
居坂の図書室は本棟とは別にあり、室というよりは館という出で立ちである。八角形の角柱にドーム状の屋根がかかった
中に入ると、壁が殆ど本で埋め尽くされており、採光用の窓以外は殆ど本棚が並べられていた。
建物は二階建てで、まず一階は、出入り口以外の壁七面が書架となっており、その内側に二重の円弧を描くようにまた書架が立てられている。内円の弧の両端は階段となっていおり、それを上がっていくとドーナツ上の二階に行くことが出来る。その二階の壁際には、また書架が立ち並んでいた。
一階の中央は幾つかの机と椅子が置いてあり、二階には折り畳みの小さな机がついた椅子が飛び飛びに置かれている。
一階の窓は西洋風の白い格子のついた両開き窓だが、二階の窓は東西南北に嵌め殺しのステンドグラスを用いており、そこから射す斜陽が床にカラフルな影を投げ掛けていた。
この情景を、文章でしか伝えられないのが凄く惜しい。そう思うくらいに現実離れした荘厳さを、僕は噛み締めていた。
午前中の失態など、最早記憶の片隅に追いやられ、僕は半ば夢見心地で館内を歩いて回る。目に留まった本を手に取り、そのまま僕は本の世界に落ち込んでいった。
「済みませんけど、閉館時間です。」
そう声をかけられて、はっと我に帰る。外はもう完全に日が落ちており、館内は白熱灯の明かりで満たされている。どうやら、かなりの時間、本に熱中していたようだ。
「すみません、すぐに出ます。」
そう言って顔を上げると、居坂の制服を来た女性が目の前にいた。ここの生徒のようだ。
はて、普通は司書が管理するものではなかろうか。顔立ちも年相応であるからして、大人のコスプレというわけでもなさそうだ。僕は不躾ながらも自身の欲求に耐えられず、彼女に疑問をぶつける。
「あの…、ここの生徒…ですか?」
「そうですけど」
「その、差し出がましいようですけど、普通は司書さんとか、大人の人が管理するものじゃないんですか?」
「今日は司書の方がお休みなので、代理を任されたんです。私、良くここに来てますから。」
「そう、ですか。失礼しました。」
「いえ、私ももう少し声掛けを考えれば良かったことです。"五十歩百歩"ですよ」
それが、彼女との初めての会話であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます